第12話 溺愛対象からの添い寝フレンド要請

花房と隊長が静真を呼び出したのは昼食の自主練の時。


「昨日は殿下の部屋で寝たのか?」


花房はきっと、静真が出てくるのを見張っていたはずだ。

彼は魁吏の要望や用事を聞くのがお役目。

二人きりになり部屋の電気が消えるのも確認していたはずだ。

下手に隠すと良い展開にはならない。

嘘や誤魔化す時に相手に悟らせないテクニックは真実を元に誇張で塗り固めることだ。

黙り込む静真に花房は苛立ちを見せる。


「貴様は殿下のなんだ」


「国民であり、スカウト生です」

「私は長年殿下に仕え、25年間殿下の幼馴染で1番の理解者だ」

花房のイライラとした声にまっすぐ、花房を見る。


この人は私に嫉妬をしている?

花房は昔から、魁吏に付き従いつつも良き執事として良き友人として振舞ってきたのは王太子妃候補として見てきた。


「自分は殿下の1番の理解者でもなければ、幼馴染ではありませんし。花房様のように執事になろうなども考えていません」

私は婚約者であり。

魁吏の未来の伴侶。

私は魁吏と支えあい、人生を共に歩く伴侶。


「殿下が花房様を誰よりも信頼していることは重々承知しております」

そして、あなたは私のようにはなれない。

あなたは魁吏から頼られ、必要とされるが。

私は魁吏から愛され、必要とされる対象だ。

貴方の立場を脅かしたりしないというつもりで静真は言ったのだが。


「殿下の事、私の事を理解したような言い分だな。なぜ、貴様のような男が殿下に取り入れた。殿下に何をした」

花房は静真の胸倉を掴む勢いで詰め寄る。

「まさか。殿下のベッドを占領し、殿下を床や椅子で寝ていないだろうな」


「もちろんでございます。一緒に寝ました」


―――シーン。


その場の誰もが静まり返った。

一緒に寝た?

副隊長はそんな静真の解答に苦笑すると自主練の手を止め、仲裁するかと歩き出す。

「なっ!殿下と添い寝をしただと!」

花房は声を荒げる。


殿下と添い寝。


それは、小屋で書類に目を通していた魁吏の耳にも届いた。

男装を隠す気がないのか?

まぁ。

俺としてはどうでも良いことではあるが。

魁吏は書類を置くと、静真の元に歩き出した。

花房は執事として有能で、彼の追求からは逃れないし。

静真を排除しようとおもえば、出来る程度の力は持っている。

まぁ。そうなると静真のかつらを取り去り、軽く着ぐるみをはいで阻止をするので問題はないが。


「貴様っ!殿下は寵愛する婚約者がいるのだぞ!もしっ、そのご令嬢が、貴様が殿下に優しくされていると知り。令嬢との仲が険悪になればどうするつもりだ」

「その心配はございません」

きっと、その令嬢は静真だ。

誤解も何も本人なのだから、心配はない。


「貴様は殿下と、どうなりたいんだ!」


静真は視界に魁吏が入り頭をフル回転させる。


「添い寝フレンドっ!添い寝フレンドになりたいです!」


副隊長はフォローに入ろうとおもって、近づいていたのだが。

思いっきり吹き出した。

「はっはっはっはっは。添い寝フレンド!添い寝友達か。そうだな。殿下はこの世界で1番強いからな」

静真は副隊長に大きく頷く。

「そうなのです!世界で1番強い殿下のお膝元で眠るのが1番安全。安息の地!私は魁吏の添い寝フレンドになりたい!」

安息地。

安心して貰えるのは、いいが。

安息地すぎるのも男として、どうかと魁吏は思う。

「貴様っ!殿下を呼び捨てかっ!」

花房は静真の胸倉を掴もうとしたときだった。

魁吏は花房の手を掴み止める。

花房は気の置ける執事であり、大切な数少ない友人ではあるが。

俺の女に触れるな。

そう言う意図で止めたのだが。

花房からしたら、魁吏が静真を守ったようにしか見えない。

そして、夜会等では上手に立ち振る舞い空気が読める静真であるが。

恋愛においては少しピントが外れている箱入り娘は。


「魁吏っ!添い寝フレンドになろう!」


・・・・。


こいつ。本当に才女か?

馬鹿女の間違いか?

空気の読み違いも甚だしい。

「断る」

添い寝フレンド?そんなものになれるか!

俺は男だ。

この先の人生、ずっと好きな女を隣に毎夜、毎夜寝かせていたらいつかは絶対に理性が吹き飛ぶ。崩壊する。

出来もしない約束等しない。

今はギリギリ静真が未成年で、男性経験のない初心な子で、夫婦でないからなんとか理性を保っているだけだ。

「え!なぜ!」

「なぜもクソもあるか」

「なぜよ!理由」

「ふざけんな」

全身から黒いオーラを放出させる魁吏に静真は少し悲しそうな顔をすると俯いた。


「・・・何か気に入らないことした?改善するから、教えて」


副隊長はそんな静真にお腹を抱えて笑い出す。

この箱入り娘には、男の欲求という概念はないのだろうか?

そして、昨日の夜はやはり魁吏は静真に手を出さなかった。

シャワーを浴びていた時も、添い寝をしても手を出さなかったし、食堂に逃げて来ていたので想像はできるが。

魁吏は紳士すぎる。


「頑張れ魁吏。可愛い少年のお願いだぞ?」

こうなったら、副隊長は魁吏を応援することを止めてからかいに走る。

「知るか。貴様は誰の見方だ」

魁吏は状況を把握し、楽しんでいる副隊長にイラッと尋ねるのだが。


「可哀想な静真。お兄さんが一生添い寝フレンドになってあげようか?」

しょんぼりしている静真の姿は少し可哀想で副隊長は静真に提案をするのだが。

「結構です。添い寝フレンドは魁吏だけ"で"いい」

魁吏だけ"で"いい?

"で"ってなんだ?

魁吏は静真を目で殺せそうなほど、睨みつける。


「”で”ってなんだ」

一国の王子であり、俺は婚約者だ。

「もういいです。添い寝フレンドは結構です」

ふんっだ。

快く承諾してくれないのならいらないわ。

少し拗ねモードに静真は入るのだが。

「一回頼んだことは撤回するな」

魁吏は拗ねたいのも、いじけたいのもこちらだと魁吏は睨みつける。

しかし、好きな女がしょんぼりしたり。

拗ねている姿は心苦しい。


「期間」

半年間以内なら。

入籍までなら、添い寝フレンドになってやらないことはない。

今朝のように抱きつかれれば、不眠になるだろうが。

妥協してやろうと思うのだが。


「一生」


ぱっと顔を上げて、明るく言う静真に魁吏は真っ黒な炎を全身から醸し出す。

「断る」

物凄いオーラで言うのだが。

「酷い。ケチ!鬼!悪魔!」

いつまでと聞くと言うことは、承諾すると言うことじゃないの?

期待だけさせてなんて意地悪なっと静真は拗ねたかと思えば、喜び、落胆で怒りだす。

「てめぇ。誰に向かって口を聞いてやがる」

魁吏は静真の顔面に手を伸ばすと、その口を右手で軽く掴んだ。

「毎日要求しているわけではないのに」

静真は口を尖らせるので。


「頻度」

毎日じゃなければ、手を出さない日もあって良いかも知れないと魁吏は思考を変えて尋ねるが。


その言葉に。

静真の脳内では、添い寝以外の日=別々の部屋、家で眠る日という解釈になっており。

「2日に1度」

「顔面潰すぞ?」

副隊長はその場に膝を突きゲラゲラ笑う。

魁吏が煩悩が渦巻き、2日に1度はベッドの上で直立不動の狸寝入りを静真の隣でするのかと思うと笑わずにはいられない。

「もう一声」

「3日に1度」

「せこいぞ?」

「月に1度」

「いいだろう」

静真は手を離し、背を向ける。

月に1度くらいは、手を出さず眠る日があっても良いだろう。


「静真、本当にいいのか?」

副隊長は立ち上がると、静真を心配そうに見るが静真は何が本当に良いの?と首を傾げる。


「男女の添い寝の夜は月に1度でいいのか?他は色々とちちくりあったりで良いのか?体、持つか?」

副隊長は花房と隊長をちらりと見ると、静真の耳元に顔を近づけ。

耳元で忠告すると静真は固まった。

「・・・え?」

そこまで言われると流石の静真も言いたいことがわかる。


「なっ!魁吏」

静真は魁吏を呼ぶが、彼は既に遠くまで歩いており。

してやられたと片手を上げ、戦闘態勢。

「月に一度を永遠に前借りしてやる。2日に1度は可能だわ」

そうだわ。毎日、来月、再来月と前借りをしまくれば良いんだわ。

なんて名案なのでしょうと静真は叫び。


ボキッ。

魁吏は小屋に戻り、書類の続きをしようと、手に持っていたボールペンをへし折った。

あの女、手加減しない。

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