第二章 気になるあの子も男装婚約者も溺愛しましょう。

第7話 少年が婚約者だと気づいたら意地悪をしてしまいます

「今日から合宿だ。気を引き締めて掛かるように!」


隊長の一声から森の中で合宿は始まった。

「各自班に分かれてテントを貼れ」

隊長の一声に10人1班でテントを張っていく。

森には食堂と大浴場の大きな小屋、魁吏、隊長、副隊長、静真の泊まる小屋が4つあり。

静真は参加の条件として雑魚寝、大浴場を拒否のため1つ小屋があてがわれた。

なので荷物を置くだけで終わる。


「魁吏がテントを立てている間、防衛案の見直しを魁吏手伝えってさ」

副隊長の声に、魁吏の小屋に入り魁吏、隊長、副隊長と共に見直しに参加する。

「南西の防衛なのだが。ルートだと抜け道になる可能性が高くて・・・」


それは、王妃教育の安全管理のときに思っていたこと。

成績優秀者だけのことはあるなと魁吏は感心し。

何も知らない隊長、副隊長は驚くが魁吏が指名したのだから役に立つのは当たり前かと気にしない。

そんな大真面目な話がひと段落ついた時。


「首の後ろも虫よけスプレーふっとけ。蚊に噛まれてるぞ」


―――え?


副隊長の声に首の後ろを押さえるが蚊に食われたような痒みや、腫れはない。

「大きい獰猛な蚊に吸われたな」

魁吏の笑うような声に、静真は思わず首筋に手を当て顔を赤めらせた。

昨日、魁吏が保冷剤で冷やしすぎて吸い付いたところだ。

「なっ!」

なんて事を!この男は!

今のこの笑うような意地悪な感じ。

確信犯だ。


「なんだ?キスマークかよ」

副隊長はそう言うと、隊長はけらけら笑う。

「お前は飲み会で小柄なお目目クリクリ女子が好みと言っていたのに、女豹が好みだったのか」


違います!

これは”魁吏”という#獰猛__どうもう__#な魔物よ!とも言えず。

「そうだぞ?団員たる者常に攻めの姿勢が大切だ。女々しい男になるな」

隊長の言葉に副隊長は先輩風をふかし、説教を始める。

「う、うるさいです!」

「最近は"肉食系女子"なんて言葉もあるが。リードしてくれる男が需要はあるし、王宮騎士団員がリードされるなんてイメージを崩す」

まるで、息子を心配する父親のように副隊長に便乗しながら言う隊長にうむむっと静間は唸る。

魁吏はそんな静真を優越感に浸るように、それでいて優しげに見つめてくるので静真は無言で机の上の資料を見つめた。


***

夕飯の用意も持ち回り制。

「刃物は刃物でも包丁は駄目ね」

副隊長、健太、修、魁吏の5人でカレーを作るのだが。

健太も副隊長もジャガイモの皮むきをさせれば、その大きさは4分の1。

人参も3分の1の大きさになる。

「剣で怪我をしないのに。包丁で怪我をするのは才能だわ」

「高位男子は料理ができなくても生きていけるんだ」

健太は静真の言葉に言い返すと、魁吏は帯刀している剣を徐に抜く。

「一層の事、包丁ではなく使い慣れている剣の方がいいか」

「良くないです!物騒なものを出さないでください」

「よく肉を切っている」

魁吏殿下。

それは・・・。

静真の脳にはある考えがよぎる。


「・・・人の肉?」


「聞きたいか?」

「やめておきます」

静真はプルプルと首を振った時だった。

副隊長は包丁をまな板に突き刺す。

「ほんと。静真が女だったら、俺が嫁に取っていた!やってられるか」

「はいはい。女だったら・・・・。嫁に行きません。包丁を突き刺せばまな板が痛みます」

はいはい。

女だったら、嫁に行っていましたと言おうとするが魁吏の視線を感じ言葉を慌てて変える。

「賢い選択だ。お前は俺の嫁になる」

魁吏は冗談だとはいえ、許さないと静真の耳元で囁く。


「最近は料理男子が人気らしいですね。僕も静真のように頑張らなくちゃ」

10歳の修は柔軟な考えを持っており。

静真は手に持っていたジャガイモと包丁を置くと拍手をする。

「偉い!修は偉い!こんな骨董品のようなオジサンになったら駄目だからな。


「骨董品って。年齢、そんなに変わんないぞ」


健太が口を尖らせる。

そんな時、静真は修はさっきから人参を切るのをじっと見ているのに気が付いた。

「修は人参が嫌い?」

「うん」

「そうなんだ」

ふふふ。私も小さなときは苦手な野菜があったな。

今は何でもおいしいと思って食べれるけれど。

静真はそんな修に少し考えると、微笑んだ。



「はい。修君はこれね」

出来上がった修のカレーには兎の形の人参が入っていた。

「可愛い!」

「これで少しは食べやすくなったかな?」

「可愛いから、頑張る」

嬉しそうに言う修の頭を静真は撫ぜる。

10歳なんてまだまだ子供。

可愛い。


「ふーん。餓鬼は餓鬼にはサービスが良いんだな」

「うさぎにんじんに対する嫉妬?1匹上げるから修を睨まないの」

静真はそう言うとお鍋をかき混ぜうさぎの人参を発掘すると魁吏のカレーに兎を追加する。

別に兎が欲しいわけではないが。

静真が誰かに優しくしていると、その対象がたとえ子供であったとしても嫉妬してしまう。

魁吏は兎の人参をスプーンに乗っけるのだが。

185㎝の見るからにしっかりとした王子が兎の人参を食べるのは面白い。

「魁吏殿下は意外と兎が似合う」

いつもからかってくる魁吏をからかう隙があれば、静真はそれを見逃さない。くすくすわらながら、言った時だった。

「俺に似合うのは狼だ。お前が希望するなら、化けようか?」


その言葉に静真は固まった。

オオカミ。

殿下。

オオカミに化けて。

ナニヲ ナサルオ ツモリ?

鼻で笑う魁吏に静真は顔を引き攣らせる、魁吏は兎の形の人参をスプーンに乗せると色っぽく口の中に入れる。

「俺は上手いぞ?」

「な、何が上手いんでしょうね」

「教えて欲しいか?」

「結構です!」

全力で否定をすると、周囲は人生で食べた中で一番おいしいカレーだと頬張りお代わりを始める。

基本的に公爵令嬢は料理等しないのだが、静真は例外でなんでも極めたいタイプ。

料理の腕も完璧だった。


「静真みたいお嬢ちゃんと結婚したい!うますぎる!」

「ほんとだ!お前、料理の才能ある」

口々に褒める団員に魁吏は面白くなさそうな顔をすると、修のカレー皿から兎を奪う。

静真に優しくされるのは、俺だけでいい。

そう言わんばかりの魁吏に静真は何をやっているのっと、目を見開き。

修は僕の兎を取らないでっと魁吏を少し睨んだ。

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