第4話 同一人物である少女と少年を愛しだした王子。
「磨けば更に栄えるな」
夜会に参加する為、迎えにきた魁吏を静真は呆れたように見る。
「普通に綺麗と言えないのですか?殿下は語彙力がある方とは存じ上げていますが、表現力は壊滅的なのですね」
「ほう」
魁吏はニヤリと笑うと静真の正面に立ち、静真の腰に腕を回して引き寄せた。
「綺麗だ」
「なっ」
正面切って、整った顔に言われると静真は乙女。
思わず顔を赤らめ、声を上げる。
「お礼ではなく。悲鳴か?」
「・・・お褒めにあずかり光栄でございます。ありがとうございます」
棒読みでお礼を言う静真に魁吏はくすくす笑う。
こいつは面白い。
もっと、早く親しくなればよかった。
「昨日も綺麗であったが。ドレスアップをすると色気が出て表現を間違えてしまった。すまない。綺麗だ」
「もういいです」
この人、私の反応をみて楽しんでいるわ。
意地の悪い。
静真は止めるが。
「もういいとは?」
魁吏はとぼける。
絶対に私の言葉の意味は分かっている。
鈍くないでしょう?
「もう褒めなくていいです」
分かりやすく言う静真に魁吏はニヤリと笑う。
「褒めているのではない。見たまま、思ったままを言っているだけだ」
「性格が悪いですよ」
顔を赤く染め抗議する静真を魁吏は面白そうに眺めた。
夜会の始まりのダンスを躍らせても静真の身のこなしは軽く無駄な動きはなく。
挨拶回りの際も謙虚で控えめに対応をするが、静真は言うべきことは言い。
魁吏が自信を持てない人物の名前や情報を提供する。
そして、魁吏もそんな静真が喉が渇いたそぶりを見せればすっとドリンクを引き寄せ、静真に下心を見せる男がいればさりげなく守る。
お互いがお互いに惹かれるには時間など掛からなかった。
夜会が終わるが離れがたい。
「少し王宮の庭を歩かないか?」
魁吏の提案に二人は王宮の庭を歩きだした。
「騎士団に静真という少年がいてな」
―――ドキッッ。
カマをかけているのだろうか?
ドキドキしながら静真は魁吏を見上げつつも冷静を装う。
「魁吏殿下がスカウトされた方ですね」
「あぁ。なかなか、自分の意見を持っていて、気働きの利く奴なんだ」
「そうなんですね」
「ふっと、お前に似ていると思ってな」
「そ、そうですか」
魁吏はそう言うと、静真の長い髪の毛を一束取るとそっと口づけをする。
なっ!
思わず一歩下がるのだが。
「すまない。あまりにも綺麗で光っているから、温かいのか冷たいのか気になった」
「結果は?」
心臓に悪いわね。
静真は心臓が口から出そうになりながら、冷静を装い問いかける。
「温かくも冷たくもなかった」
***
よっしゃ!
走るぞ。
昨日の夜会では、初めて魁吏と参加をして終始ドキドキして、夜はあまり眠ることができなかった。
今日は思いっきり運動をして寝るぞと静真はいつにもまして、意気込んでフルマラソンを走りだした。
「そのちっこい体のどこにそんなスタミナを持っているんだ?」
で、でた!!!!
昨日の夜会ではずっと腰に腕を回され、エスコートされていた上に王宮の庭を散歩しながら、なんだか甘い雰囲気なった相手。
昨日に引き続き、静真は口から心臓がでるのではないかと思うほど緊張する。
しかし、気づかれてはいけない。
静真は冷静を装い走り続ける。
「この辺」
静真は走りながら普段通りの様子で自身の足を指さすと、魁吏はクスリと笑う。
「足か」
「そう。足」
「正解だな」
そういって魁吏は静真の隣を走り続ける。
「殿下。昨日は初めて終始、王太子妃候補をはじめから最後まで、エスコートしていらっしゃい国王陛下が安心していらっしゃいましたよ」
隊長はランニングをしながら、魁吏に話しかけると静真は更に鼓動が早くなるのだが。
「あぁ。あの女は面白い」
「面白い?綺麗でも可愛いでもなく、面白いですか?」
隊長は重ねて問いかけると、副隊長は追いついてくる。
「あの女の子、まだ幼いよな?綺麗で、色気あるけど乳臭い」
乳臭い?
こいつ。
足でも引かっけ、転ばせようかと静真は思いながら走ることにひたすら集中する。
「綺麗で可愛いし、守ってやりたくなる娘ではあるが。それ以上に、面白くて見ていて飽きない」
少し執事の花房に調べさせるとあの娘は15歳には王妃教育を終えた才女。
頭脳明晰で乙女の園と名高い籠瀬女学園では全生徒の模範。
籠瀬女学園の生徒は心身ともにか弱く、大人しい集団だと聞いている。
魁吏は大切にしようと思う中。
守って貰わなくても大丈夫よ。
一般的な生徒と違って、心身ともに・・・。
男性の免疫がない事以外は屈強だわ。
静真は真逆の事を思っていた。
「魁吏から女をそういう風に聞くのは初めてだ。惚れているのか?」
”惚れているのか?”
副隊長の問いに魁吏がどう反応するのか、静真は気になるようで怖いような気がして足を速めた。
このままこの集団と話しながら話していると、絶対に顔が赤くなりばれてしまう自信もあった。
「フルマラソンをかっ飛ばすと後で辛いぞ」
魁吏は足を速める静真の隣に涼しい顔で直ぐ並ぶ。
「自分のペースです」
「そうか?息が上がっている」
「そりゃ。小柄ですから。巨大生物よりも心拍数は早いんです。犬猫の心拍数は120~140回。兎は180~250回。ネズミやハムスターは300~400回。魁吏殿下たち180㎝越えの大型哺乳類と私のような167㎝の小型哺乳類は違うのです」
「心拍数と呼吸が上がるのは異なると思うが?」
魁吏は静真と話すのが楽しく、追いつくとゼイゼイと息を切らしかけている静真に涼しげな顔で話しかける。
まるで昨日の延長だなと思いつつも魁吏は静真を少年だと思いこんでいた。
「力配分を考えろ」
「うるさい」
魁吏殿下が昨日の事を話すから、私が全力疾走を余儀なくされたんじゃない。
走り終え、芝生の上で寝転がる静真にペットボトルを渡しながら魁吏は声を掛ける。
「お前は隅が好きだな」
騎士団の男共は上半身を脱ぎ水を被り涼んでいるので、目の毒だと思い少し離れて転がっていたのだ。
「お前も着替えろ。風邪ひくぞ」
「大丈夫」
「馬鹿は風邪ひかないか?」
「馬鹿は風邪ひかないんじゃなくて。馬鹿は馬鹿だから、風邪を引いたことに気が付かないんじゃないですか?」
「・・・確かに。馬鹿でも知的生命体である以上、人間の規格か」
「はい」
静真は頷くと魁吏は隣に腰を下ろした。
そして執事の花房がTシャツの替えを差し出すので、魁吏は脱ぎだし。
「露出狂!」
「はぁ?」
叫ぶ静真に魁吏は不機嫌そうに言うと、静真はごろんっと仰向きからうつ伏せになり周囲を見渡すと・・・。
あちこちで、水道で水を被り着替える男共が目に入る。
見渡す限り男しかいない。
筋肉しかない。
柔らかい女の子が見えない。
幼稚舎から女学園に通う静真は芝生に顔を埋めた。
「魁吏殿下は化け物でいらっしゃいますか?。疲れが見えない」
着替え終わる魁吏を静真は見ると思ったことを尋ねるのだが。
「昨日の娘のせいで、煩悩が渦巻いていてな。気分転換ができて走る前より気分爽快だ」
ぼ、煩悩!!
この人はあんなに気配り、心配りのエスコートをしながらそんな事を思っていたの?
そういえば・・・。
別れ際に髪の毛に・・・。
この変態!
何を考えていらっしゃるのですか。
そう言いたいのだが、魁吏が隣に寝転ぶので。
静真も何も言わずに再び芝生の上にうつ伏せのまま転がった。
変な奴。
行動が予想できなくて、静真は面白い。
魁吏はそう思うと芝生に寝転び目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます