第3話 王子と婚約者の距離は接近中

―――土曜日。

今日は王太子妃候補の召集日。

静真は長い金色の髪の毛をくるくると優雅に巻き、豪華な宝石を身に纏う。

最近はずっと黒髪で短髪のかつら、黒のカラーコンタクト、ズボンにシャツを着ており。

久々のドレスはお洒落にも気合が入る。

「お嬢様。更に体のラインが綺麗になられましたね」

それはそうだろう。

訓練に参加をしているのだからとメイド長に苦笑をすると、静真は家を出た。

王宮では他の9人が美しく着飾り円形の机の前に座り魁吏を待っていた。


「静様。ごきげんよう。新しいネックレスですか?」

「ごきげんよう。潤華様。お父様が昨日、私に似合うと用意してくださったのです」

静真が父親からプレゼントされたもの。

「とてもよくお似合いですわ。私の物より高価ですわね」


めんどくさいなぁ。この会話。

学園の友人達は純粋に似合っている。綺麗と褒めてくれるのだが。

この婚約者候補達は、値踏み、自慢、妬みばかり。

円形の机の魁吏の座る駅からみて左側、45度の一番目立たない定位置に座ると隣に座っていた潤華に声をかけられ静真は上品に微笑みつつ内心ため息をついた。


「「「「「ごきげんよう。魁吏王太子殿下」」」」」

招集時間ちょうど。

魁吏は部屋の中に入ると、不機嫌オーラ全開で席に座る。

「魁吏王太子殿下。私のお贈りさせていただいたお菓子はきにいっていただけましたか?」

「本日も魁吏様のお顔を見られるのことがても嬉しく感じております」

「魁吏殿下は今日もかっこよくて、凛々しくていらっしゃる。心奪われます」

口々に話しかける婚約者達を魁吏は無視し、側近執事の花房に話を進めろと視線で促した。

「本日は明日行われる夜会でのパートナーを決める為に集まっていただきました」

その言葉に9名の女性は立ち上がった。

「私をお選びください。魁吏殿下を満足させられます」

「魁吏様。私でしたら、魁吏様のパートナーを立派に勤める事が出来ます」

「王太子殿下に相応しいのは私ただ一人でございます」

口々に言う彼女達に魁吏は椅子のひじ掛けに両腕を乗せると足を汲んだ。


「今、喚かなかった女」

魁吏の幼馴染であり側近執事の#花房__はなぶさ__#はその言葉に頷く。

魁吏は誰もいないという回答を期待していたのだが。

「立つことも話すこともしなかったのは・・・。静嬢です」

皆が静嬢と呼ぶので、花房も静真の事を“静”と呼び、認識していた。

まずいわ。

今週は毎日、魁吏は忙しいので短時間だったり、一日中だったり、時間は様々だが顔を合わせている。

バレないかしら?冷や汗をかく中。


9名の女性達は静真を睨みつけ、今日の招集日はもう用事はないわと退出を始めるのだが。

「地味女。思い上がらない事ね」

「ただのラッキー。殿下は貴方なんかに興味はないわ」

勿論。

静真に嫌みを言うことは忘れない。



魁吏殿下はうるさい女が嫌い。

「私を選んでいただいてありがとうございます!私を好きになっていただいてありがとうございます!これほど、嬉しい事はございません。私は前々から魁吏様をお慕いしておりました」

激しく殿下を褒め、殿下を求めてやる。

私を今後二度と選ばないよう印象付けをしてやる。

お茶を掛けたり、まとわりつくような中途半端な事を私はしないわ。

私はもっと大胆にもっと嫌がることをしてやる。

「ほう。慕っていた?バーコード禿に将来なるが?」

うわっ。やっぱり、罵倒したことを根に持っている。

そう思うが、今は聞いていないふりだ。

「まぁ!今まで謙虚な女性がいなかったから、謙虚に過ごしてきて大正解でしたわ!やっと、魁吏殿下のお眼鏡にかかることができました」

大きな声で喚きまくる静真が魁吏の腕に手を添えると「ちっ」と舌打ちをしてから、作戦通りその腕を振り払われる。

よっしゃ!大成功。

思わずにやっと口元を緩め。

手を振り払われた衝撃でよろけ、捻挫でもしたと演技の一つでもしようとした時だった。

口元を緩ませた一瞬の隙を魁吏は見逃さない。


「選んだ甲斐があった」


なぜよ!

ここは、貴様など失せろじゃないの?

なぜ?っと、低い声で言う魁吏に静真は目を見開き傾いていた体をすっと起こし、魁吏の頭に手を置く。

ここで、一番嫌がる胸を押し付けようと思うが・・・。

そんな事は男性経験がない静真にではできない。

硬直していると、魁吏はくすくす笑い出した。

「面白い。柄じゃないくせに、まとわりつくな。その胸を俺に当てる事ができないくせに当てようとするな」

「いいえ。押し当てられます!私は物凄く魁吏殿下にベタベタしたくて仕方がございません」

こうなったら、意地だ。気合だ。根性だ。

嫌われることをする。

世の女性のよう全身をくっつけようとするのだが、羞恥心からすることはできず。

魁吏の頭と静真の胸には5センチほど距離が開く。


―――くくくっ。


魁吏はそんな静真に笑いを漏らした。

「楽しめそうだ」


「幼気な”少女”でからかわないでください。卑劣です」


幼気な少女でからかわないでください?

そういえば、昨日。

幼気な”少年”でからかわないでくださいと聞いた記憶がある・・・。

どこだったかな?

魁吏はそう思いつつ静真を見る。

「卑劣?あぁ。俺は魔王と呼ばれているからな」

「それは指導力、統率力、戦隊能力の高さからでございましょう?とはいえ、17歳の軍事強化訓練でスカウトした子に一本取られたようですが?」

不意打ちとはいえ、一本取られている。

魔王の名前は返上も検討するべきだわ。

静真は負けず嫌いな性格でからかい返すのだが・・・。


「おい」

どこまでも低い声で魁吏は不快そうに声を出すと、静真の両頬を右手で掴む。

負けるという事が静真よりもより、魁吏は嫌いだった。

どす黒いオーラを出す魁吏に静真は身を縮める。

「ごめんなさい」

思わず静真は謝るが。

時すでに遅し。

魁吏の美しい顔が急接近し、思わず真っ赤になり視線を逸らす。


「口は立つのに初心とは、からかいがいがある」

「そんな事は断じてないです!」

「幼稚舎から女子学園に通い、男の免疫などないのだろ」

「女子学園に通っている事は当たっていますが、男性に囲まれる機会は多々あります。免疫はついています」

「男に囲まれる?ほう。それは面白い」

魁吏はそう言うと静真の額に口づけをする。

「なっ!痴漢!変態!未成年に手を出すのは、不健全性行為です」

全力で静真は魁吏の胸板を押すと、真っ赤になり涙を浮かべるので魁吏は手を離した。

「すまん」

少し申し訳なさそうに魁吏はいうと、その場にしゃがみ込む静真の前に屈む。

「やりすぎた」

重ねて詫びられ、静真は首を左右に振り顔を上げる。

「俺に対して言い返す女は初めてでからかいが過ぎてしまった」

魁吏は静真を立たせると、椅子に座らせる。


「明日の夜会。俺が怖ければ、逃げ出してくれて構わない」

“逃げ出す”

「私の辞書に逃げるという言葉はありません。少し驚いただけですが。殿下が望まれるのであればなんでもしましょう」

立ち向かう気満々で言う静真に魁吏は苦笑する。

「そうか。では、また明日」

魁吏はそういうと公務に出かけて行った。


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