2話 温もり
目を覚ました少女が起き上がると、そこはとてもボロボロな家の中だった。壁や床は穴だらけで、天井に吊るしてある電球は割れている。
ここはどこだ?少女は思い出そうと記憶を頼るが、以前の記憶は全て消えてしまっていた。壁の穴から差し込む陽光と波の音に、ここは海だという事は理解出来た。少女が自身の着ている服を見ると、綺麗な純白のドレスだが装飾も無く、まるで死に装束のように思った。
ギィというドアが開く音が聴こえ、少女はドアの方へ視線を向けると、背の高い男性にも女性にも見えるリンがいた。
「あ、起きたんだ。」
不慣れに手を振りながら微笑むリンは担いでいた大きな魚をテーブルの上にドンと置き、少女に近づいてくる。
「良かったよすぐに起きて。」
「あの・・・あなたは?」
「あー、そうか。ワタシはリン。見ての通り、異形の者さ。けど危害は与えないよ。」
「異形・・・?」
するとリンの右腕が不可解に折れ曲がっていくと思いきや、禍々しい形をした刃へと形を変えた。その異様な光景に少女は驚き、床に落ちている貝殻を次々とリンに投げつける。
「痛っ!ま、待って!ごめん、驚かせたよね!すぐ戻すから!」
自分の浅はかな行動で少女を怖がらせてしまった事を反省しながら、リンは元の人間の腕へと形を戻した。だが、元の状態に戻した所で、異形の変化を見てしまった所為で、少女は未だ警戒したまま。
せっかく自分以外に話せる生き物と出会ったのに、このままでは嫌われたままだと思ったリンは、手料理を振舞って少女の胃袋を掴んで仲良くなろうと考えた。
「お、お腹!空いてない・・・?」
「・・・私を食べるの?」
「食べない食べない!丁度今から昼食にしようと思ってたんだ!」
リンは右手を鋭い刃に変え、魚の腹を裂き、切り口から右手をぐっと突っ込んで内臓を引っこ抜く。内臓を抜く時に飛び散った魚の血が少女にかかってしまい、少女の顔や服が魚の血で汚れてしまった。
「あ・・・。」
すぐに謝罪を言葉にしようとしたリンだったが、少女は顔に付いた血を拭い、ズカズカとリンの方へ近づくと、リンの右腕を掴んでくる。
「え?」
「さっきのように、右手を刃物に変えてみて。」
「あ、はい。分かりました・・・。」
言われるがまま右手を刃に変えると、少女はリンの右腕を上手く扱いながら魚を綺麗に捌いていく。
「あ、あの・・・怖くないんですか?」
「命を頂くのだから、怖がるなんて失礼な態度は出来ません。」
「いや、魚じゃなくて・・・その、ワタシの事・・・。」
すると、リンの右腕を動かしていた少女の動きがピタリと止まり、リンの顔を見上げてくる。少女にどんな暴言を吐かれるかと思っていたが、そんなリンの思いとは裏腹に、少女は優し気な微笑みを浮かべながらリンの頬に右手を当てた。
「感情が分かりやすい人は恐ろしくなんてない。それにあなた、嘘がつけなさそうですもの・・・さっきは、貝殻を投げつけてごめんなさい。いきなりでビックリしちゃったから。」
少女の言葉にリンは久しく感じていなかった母親の愛に似たものを覚えた。自身の頬を撫でる少女の手の温もりに安らぎを感じ、もっと感じていたいと思ったリンは、頬と肩で手を挟む形で自身の頬を押し付けた。
「あら、まるで妹か弟ね?ふふっ。」
正直に甘えてくるリンに少女は年下のような可愛さを見出し、もう片方の手でリンの頭も撫でてあげた。
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