第6話 それぞれの強み

「どうやら…、私たちの先生は本物みたいね」


尻込みしそうな迫力を前に、アシュリーが冷静にそう言葉を綴った。

…ならば。



アシュリーは両手を、目の前の何かを持ち上げるような動作で挙げた。

すると、その動きに連動する様に、模擬戦を行なっている演習場の横を流れている川の水が、重力に逆らって持ち上げられた。


一瞬にして、10mを超す巨大な津波が演習場の天を覆う。


「…さすがは、血筋・・といった所かしら」


ミアは走り出した。

地面を勢いよく蹴り出し、空中に回避する。


「無駄よ!先生!」


アシュリーは、手をミアの逃げた先に向けた。その動きと連動して、水が蛇のようにミアを追尾する。3本にも、4本にも枝分かれした水流が、彼女に襲いかった。

水魔法。

広範囲且つ柔軟な動きを得意とする水魔法は、体術と相性が良い。


「さぁ、どうする!?先生!」


何度も空中で回避しても、水流が矛先を変えて再びミアに向かう。

その時、彼女は予想外の行動に出た。


空中から、地面に向けて降下したのだ。

そして、そのまま地面に強烈なブローを一撃。大地が裂け、地盤が剥き出しになる。水面を跳ねる魚のように飛び出した地盤を、なんと素手で掴んだのだ。


30mは超える岩石の棒を、1.5mの体が持ち上げる。



「しゃあ、オラァァぁぁぁぁぁぁぁぁッッーーー!!」



雄叫びと共に、8階建の建造物並みの大きさをもつ岩石が、彼女を追っていた水流に向けて振り下ろされた。



次の瞬間、視界が45度傾く。

強烈な地震の時には、人は立っている事ができない。アシュリーは激しい衝撃と揺れに、その場でよろめいた。


耳を覆いたくなるような轟音と共に、大地が蜘蛛の巣状に割れる。




気がつけば、大地にクレーターの様な大きな穴が空いていた。

水は打撃に強い。衝撃を吸収できるからだ。

しかし、そんな常識など馬鹿げた妄想の様に、水魔法は跡形もなく消し飛んでいた。代わりに、吹き飛んだであろう水魔法が霧雨となってパラパラと、アシュリーの体を撫でる。



「…チートよ」


「あら、ごめんなさい。ちょっと本気になりすぎたかしら」



ミアはニヤリと口元に笑みを含んだ。

次の瞬間、地面を勢いよく蹴り飛ばし、一瞬でアシュリーの懐まで潜り込む。勢いよく突き出された拳を、彼女は咄嗟に水魔法のバリアで応戦した。

しかし、そのバリアも簡単に打ち砕かれ、体制が悪いまま、繰り出される体術の連撃に、守備に転じてしまう。


「ほらほらぁ!守ってるばかりじゃ勝てないわよッ!」


「…ッ!このッ!」


無理に体制を捻り、先生の挑発通りに攻撃を繰り出すと、待ってましたとばかりに足で弾かれた。今度こそ、立ってられない程に体制を崩す。

ミアは、それを見逃さなかった。

地面に手を付き、側転する様な動きで足を蹴り落とした。


アシュリーは、倒れそうな体制からなんとか防御の姿勢を取った。しかし、先生は体重移動を存分に駆使して放たれた渾身の一撃。

食らう前からわかる。マズイ。

ノアを一撃で仕留めた、あの光景が走馬灯の様に脳裏をよぎる。




その時、




ガンッ!

と肉体が出す音ではなく、金属音が弾ける音が鳴り響いた。


「…アンタッ!?」


ノアが、先生の蹴り落としを剣と肩を使って受け止めていた。それでも、肩に走る衝撃に、顔を歪めていた。


「おらァッ!」


ノアは、先生の足と交錯していた剣をしっかりと握り直し、振り抜く。彼女はそれを避け、一旦2人と距離をとった。


「アンタ…、やられてたんじゃ…」


「ばか言え。俺がそんな一回や二回のされたぐらいでやられるかよ。どうやら、一筋縄じゃいかねえなぁ、あの先生」


…どうする?

ノアは剣を構えながら、心の中でそう考える。

俺は、魔法は使えない…。だが、体術じゃああの先生には遠く及ばない。じゃあ、2人で協力するしか…。



心の中でそう考えている時、2人の所にフアンが走ってきた。

正直、彼の存在をすっかり忘れていた。ノアが不意を突かれた表情をしている所に、彼は驚きの一言を口にする。


「…見つけたんだ。先生の弱点を」





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