0時の秒針

ユウキ 数多

0時の秒針

 あなたは夜瞳を閉じる時、私のことを考えていてくれているかな。私はいつも考えているのに、あなたはきっと私のことなんて脳内の5%も満たしていない。


 「いや、3%いっていたらいいほうか。」


 そう言葉に出した後、心のなかで笑った。頬は冷たいのに。 


 あぁ、なんでこんなになっちゃったんだろうな。深夜3時30分錆びた手すりのベランダで思った。


*


 出会いはサークル。ただの仲のいい先輩後輩の関係だったのに、たった一つのお酒の場で関係179度傾いた。

 当時の私は純粋だったので体を交わせば当然恋人同士になれると思っていた。顔は悪くなかったし、話しやすかったから別にいいかなと思っていた。

 だから彼に問た。


 「私達って、付き合うの? 」


 臆病な心のせいか、自分の心情を察せられたくなかったのか、後ろめたい言葉と言い方でいった。


 「んー。彼女はいらないかな。」


 心の辞書から「期待」という言葉が霞み始めた気がした。それと共に心の傷口ができた気がした。


 「付き合いたかった? 俺と。」

 「いえ。酔いのせいなので大丈夫ですよ。」


 強がりか、半笑いながら返した。この時「本気だったのに。」と、悲しそうな顔で返していたら、なにか変わっていたのだろうか。

 その傷口がどれ程抉れることになるかを当時の私は知らない。


*

 

 それから彼とはあれこれ2年だ。

 純粋だった一回生の私はもういない。後悔もしている。もし神様から、彼の記憶を消すか問われたら間違いなくイエスと答えるだろう。なのに彼から離れれないのは呪いでもかかっているのだろう。そういうことにしておこう。じゃないと、私の心は彼の沼の色になってしまいそうだ。


 「んー、でも8割ぐらい彼女なんじゃない? 結構好きだしね、お前のこと。」


 今思えば、多分彼からしたら、何気ない一言だったと思う。なんの感情もこもっていない言葉。ただの関係を維持するための惰性で出た言葉。

 なのに私はこの一言がどれほど嬉しかったか。落としたと思っていた単位を得ていたときの5000倍は嬉しかった。その日から1周間はその言葉のおかげで頑張れたくらいには嬉しかった。本当に嬉しかった。


*


 しかし、その都合のいい関係は急遽終りを迎える。ある日いつも通り私の家でセックスをした後告げられた。


 「あ、悪いんだけど俺彼女できたからこれからは会えないわ。」


  一瞬心臓が止まったかと思った。


 「え、じゃあなんで今日したの‥‥。」

 「んー、なんとなく最後だし。付き合う前から約束してたしね。」


 今思えば、尊敬するほどのクズっぷり。潔が良すぎるほどのクズ。でもそのときはなぜか悲しめた。涙だって出せたと思う。出さなかったけど。気持ちを察せられたくなかったから。もう知られていたかもしれないけど。


 「そっか。じゃあもう会えないね。」

 「んー、そうだな。付き合ってる間は会えないかもね。まぁ、別れたら連r‥‥。」

 「大丈夫だよ。会えなくて。いや、会わないでいいよ。これから大人になっても。       

 少なくともここで。」


 彼の言葉を遮るように否定した。初めて心の底からでた言葉を言ったかもしれない。それから数十分雑談してから彼は彼女の家に向かった。彼女には友達に家で遊んでから向かうと言っているらしい。間違ってはいない。ただその友達の頭文字にかっこでカタカナの「せ」がついているだけ。

 そして別れ際彼にこういった。皮肉の意味を込めて。


 「じゃあね。」

 「はい。では。勝手にどっかで誰かと幸せになってください。さようなら。」


 いつもと変わらない顔で言った。彼はすこし笑ってチャラけた声で笑ってドアが閉まった。


 そしてベランダに向かった。なぜか瞳から雨が降っている。

 そして、茶色のザラザラした手すりにお酒をおきながらタバコを吸った。

 このタバコの副流煙が全部彼まで届いたらいいなと思った。




 

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0時の秒針 ユウキ 数多 @yuki0209

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