第13話


「似合ってますよ~。その『パン2』Tシャツ!」

「そ、そうか? なんかフツーに恥ずかしいんだけど……」


アニメショップを佐奈ちゃんと堪能した俺は乗せられるがままにこの『パン2』Tシャツを購入してしまった。さらに帰り道で買ったカフェオレを服に掛けられ、急遽トイレでこの『パン2』Tシャツに着替える羽目となった。


そんなパン2Tシャツ。

名前の通り、パンツが二枚プリントされた、どこの誰に需要があるのかさっぱりわからないTシャツである。ちなみにいくつか種類があるうちの赤のパンツと黄色のパンツがプリントされた方を購入した。


腹がたつことに生地はしっかりしているので、着心地は最高だ。


「……しかし、思った以上に詳しいね、佐奈ちゃん。俺の話に合わせてくれてたんだと思ってたよ」

「ホントですか? ……逆にウチはお兄さんが実はにわかなのではないかと疑ってますが……」

「うっ……」


……す、するどい!


俺は別に本気でグッズやキャラ(声優)の追っかけをする気はない。

アニメの原作を購入することも無ければ、こういったショップも興味本位に行くくらい。つまり、何かを購入するために来ることはないのだ。


言うなれば『中途半端オタク』


今日もこのTシャツとキーホルダーを買ったくらい。

代わって彼女はと言うと、大量に購入したグッズ等を両腕でエッサエッサ運んでいる。……胸が邪魔そうだ。


悔しいが彼女の前ではそう言わざるをえないだろう。


「確かに佐奈ちゃんと比べたら俺はにわかだろうな……」

「……まぁ、最初は誰でもにわかです。大丈夫ですよお兄さん。今日から『ガチ』になりしょう」


ウンウンと頷きながら慰めてくれる佐奈ちゃん。


……いや、別にガチになりたいわけじゃないよ?


「取り敢えず、今季のアニメ全部見てください。話はそこからです。あ、あと、原作も買ってくださいね。今季は原作も良いんですよ~。それとCDも買ってくださいね。こういうお布施から業界は発展していくんです。それかr……」

「さ、佐奈ちゃん……? 」

「あ、ご、ごめんなさい。つい興奮してしまって」


……この子ホントにギャルなのか?

なんかやっかいオタクにしか見えないぞ?


冬美の話だとイケメンにしか相手しないメンクイモンスターと聞いていたのだが……。


「佐奈ちゃん、ぶっちゃけ聞いて良い?」

「なんですか?」

「冬美の勘違いだったらごめんね? ……なんか冬美の話だと、中学から顔の良い男としか話さない生粋のギャルと聞いてたんだけど……」

「それは仮の姿です。……私は見ての通り顔もいいです。更に身体もいい……」


そう言い、グッズを抱えたまま器用に胸を寄せる。


自分で言うんかい。

……まぁ、たしかにそうだけど。


「こんな『恋みの』のみのるちゃんみたいな良い女がオタクなんてバレたら、オタク共が寄ってくるのは明白。それも鬱陶しいからいっその事振り切っちゃおうと思ってギャルになりました。実は中学デビューなんですよウチ」


……そうだったのか。


本当は好きなアニメ、ゲーム、ラノベを語りたいのに、それを隠して生きてきたのか。


「……こんな人間、引きますか?」


そう言う彼女の声色はいつもより震えている。


彼女も彼女なりに考えていたのだろう。

確かに俺の中学にも大っぴらげにオタクを出している生徒はいなかった。

そんな状況でこんな可愛い子がオタクなんて知ったら、そりゃ男連中も群がりもするだろうし、実際に鬱陶しいだろう。


そして何より、本当の自分を知られて嫌われる事が怖かったのだろう。

本当はもっと『本当の自分』を知ってほしかったはずだ。


そう思うと自然と佐奈ちゃんが可愛く思える。

もちろん容姿とかではなく。


「……いや、全然。むしろ知れてよかったよ。本当の佐奈ちゃんを」


そう言うと、立ち止まる佐奈ちゃん。

そして抱えたグッズを落としてまで、俺に抱きつく。


「ありがとうございます!! ……嬉しい。を知ってくれて」


や、柔らかい……。


この喜び様、今まで本当の佐奈ちゃんを知るものはいなかったのだろうか。

中学の3年間はどう過ごしたのだろうか、家の中ではどうやって過ごしてるのだろうか。高校でも同じ様に生きて行くのだろうか。


この一瞬に佐奈ちゃんの今までの事とか考えが頭によぎる。


しかし、次の一言でそんな事は全て吹っ飛んだ。


「あ、あの……もし良かったら、今から佐奈の家来ますか? ……誰もいないですし」

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