第7話
駅前まで着いた俺たちは適当なファミレスに入る。
兄妹揃ってはいささか恥ずかしい。それに冬美からこんな風に誘ってきたのは久しぶりな事もあり、若干、いや結構緊張している俺がいる。妹と二人で一体何話せばいいんだよ。
「……で? なんでフラれたの? あの時はなんか夏己泣いてたし、深く聞かなかったけど。やっぱダサいとかそんな理由でフラれたの?」
そんな俺の心境とは裏腹に頼んだオムライスを頬張りながらズケズケと答えづらいことを聞いてくる冬美。……というか、未だにオムライス好きなのかコイツ。
「……多分な。なんかフラれた時は特に理由は教えてくれなかったんだよなぁ。急に別れて。だけ言われて帰ってったわ」
「ええー! 昔はそんな子じゃなかったのに碧ちゃん、……時は人を変えるんだねぇ」
うんうん、と頷きながらしみじみ語る冬美。いや、俺らより年下だよねお前。たしかに一個しか違わないけど。それに昔は碧とは喧嘩ばかりしてただろ。
「それでどうするの?」
「何が?」
「何が……って、ダサいのが理由だと思ってここまでしたんでしょ? ……また碧ちゃんに告白するの?」
「いやー振られたしなー。また告白してもどうせ振られそうだし。もういいかなー。と正直思ってる」
「今の夏己なら絶対成功すると思うけどなー。……正直、今の夏己めちゃくちゃカッコイイし」
「……」
思わず顔も赤くなってくるのがわかる。
そんなどストレートに褒めてくるのやめてくれる?
「うわー顔赤くなってるー。嬉しい? 嬉しいの『おにいちゃん』? 妹に褒められて嬉しい?」
そんな俺を見過ごす訳もなく、ここぞとばかりいじり始める冬美。
向かいに座っているにも関わらず、わざわざ身をを乗り出して眼の前にまで顔を寄せる徹底ぶりだ。
……おちつけ、おちつくんだ俺。ここで殴っても何も解決しない。
いいな、ここはクールに。兄としての威厳を見せるときだ……。
「ってできるかぁ!! ぶん殴ってやるっ! 表でろ表ぇ!!」
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殴ったか殴ってないかは秘密。
「でもなー。不思議なんだよねー」
「何が?」
「いや、夏己がちゃんとしたら実はイケメンでした。なんて碧ちゃんが一番知ってるはずなのに」
「俺がイケメンかどうかは置いておいて。アイツの前でも特にちゃんとしたことないしなー。やっぱちゃんとしてほしかったじゃないか?」
碧とはお互い幼稚園の頃から一緒だが、友達時代、カップル時代を思い返しても髪も服装も何も気にしたことはなかった。ひどい時は全身ジャージでデートしたこともある。今思うとひどいな、俺。
「それはないね」
「なんで断言できんだよ」
「だって、碧ちゃんから言われてたんだもん」
「何を?」
「夏己には何もアドバイスしないで、って。だから今まで何も言わなかったんだよ私。……流石にジャージでデート行ってた時は言おうかと思ったけど」
「ええ!! そうなの!? ……でも何で?」
衝撃発言である。
「それは……そういうことでしょ」
「そういうことって、どういうことだよ」
そう言うと、何かを考える冬美。
少しの時間をあけ、ようやく口を開ける。
「……碧ちゃんは夏己がカッコいいなんて事、とうの昔には知ってたの。それはそうよ、だって毎日一緒にいたんだから」
「……う、うん」
「そんな夏己が今みたいにカッコつけだしたらどうなる? ……もちろんモテる。メンクイの佐奈みたいな女子が夏己を放っておく訳がない」
「……」
「碧ちゃんはそれが嫌だったの。夏己がちゃんとしたらモテるなんて明白。だから、本人からも何も言わなかったし、私にも何も言わないでってお願いしてきたの。……以上、分かった?」
そ、そうだったのか……。
確かに今まで服装とか髪とか、そういう事については何も言われたことがなかった。逆に碧もそんなにオシャレをしてなかっ……。ああ、そういう事か。
碧は俺に合わせてくれてたのか。
地味カップルと中学の時は言われていたが、あれは碧があえて俺のレベルに合わせていたのか。だから今の碧が本当の『桜町碧』
俺はアイツに無理をさせてしまっていたのかもしれない。
となると……。
「何が理由で振られたんだ俺は?」
「知らない。だから不思議なんでしょ。……とりあえず奢ってもらうから」
そう言い、頬を抑えながら立ち上がる冬美だった。
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