第5話

コンタクトレンズの試着で1時間かかった人はお客様位です。とまで言われたが店員さんのおすすめで1DAYタイプを3ヶ月分購入した。購入までに色々と紆余曲折あったが、これで冬美の指示は達成できた。


せっかくだからと着けたまま帰宅すると案の定リビングでゴロゴロする妹が一人。


コイツ友達が多そうな雰囲気しているが、この連休中に外に出ている所を見たことがない。……もしかして友達いないのでは。お兄ちゃん、心配。


「あ、おかえりー」

「ういー」

「どうだった?」

「着けるのに1時間かかったのは俺くらいって言われたけど、なんとか着けれたわ」

「えー、そんなんじゃ毎日着けるのキツくない?」

「いや、元より毎日着けるつもりないからな。休日くらいでいいかな、コンタクトは」


学校はコンタクトに慣れるまではメガネでいいだろう。


「ふーん、あっそ」


あっそ……ってお前がコンタクトにしろと言ったんだろ。

なけなしのお小遣いで買ったのに、なんてあっさりな反応だ。


「それより、着けたまま帰ってきたんだ」

「ん? ああ、着けるのも時間かかったし。……ま、せっかくならと思ってな」

「……やっぱ、メガネないほうがいいよお兄ちゃんは」

「そ、そうか? でも妹に言われてもな。……まぁ、ありがとよ」


急にしおらしく言い出す冬美の言葉に、思わず照れてしまったので、隠すようにそそくさとリビングから洗面所へと向かう。そのまま手洗いうがいをしながら顔を見ると、いつもの度も合わなくなってきたメガネ越しと比べると遥かに見やすい。


それに冬美の言う通りメガネがない方が似合ってる……気がする。


そんなコンタクトの素晴らしさを感じながらリビングに戻ると冬美が着替えている。


「なんだ、出かけるのか?」

「うん、せっかくの連休だしね」

「ほーん、誰と遊ぶんだ?」

「え、お兄ちゃんだけど」

「……は? いや、そんな約束した覚えはないが」


そんな事をとぼけた顔をしながら言う冬美。

俺としてはもう今日のターンは終えたので家でゲームでもしようと思っていたのに。


「せっかく髪も切ってコンタクトにしたんだから、外でようよお兄ちゃん」

「いやいや、俺はいいよ。友達でも誘って行ってこいよ。お前が誘ったら誰でも来てくれるだろ」

「嫌だよ。友達と話すのめんどくさいもん」

「……」


とんでもないこと言う妹である。

友達が少ない俺かしたら死ぬまで言う事がない言葉だろう。

……だから連休にも関わらず家にいたのかコイツ。


「いや俺はいいよ。ゲームしたいし」

「……いいの? お兄ちゃんがママのピアス失くしたの言うよ?」

「それはズルくないか!?」


それは俺への禁止カードである。

ちなみに両耳とも失くしてしまった。しかも母親のお気に入りである。

まだ俺が失くしたことにはなっていない。このまま迷宮入りしてくれることを切に願う。


「……クッ、分かったよ。これ以上お小遣い下げられたくないしな」

「分かれば良いのよ」


と勝ち誇った顔の冬美。

悔しいが、コイツにはいくつもの弱みを握られているため中々強く出られない。


「……で、どこ行くんだ?」

「まぁ、特に決めてないけど。とりあえず昼飯にも行こうよ」


確かに午前中にコンタクトを買え終えており、昼飯は家にある適当なカップ麺でも食べようとしていた所。俺としてもちょうど良い。


「りょーかい。とりあえず店は駅前にでも行って決めるか」

「はいよー」


月見里やまなし家は割りと栄えている駅から少し離れている閑静な住宅街に位置している。

先程行ったメガネ屋は住宅街側にあるので、家からも近いのだがコンビニやスーパーといった日常品の購入は駅周辺まで行く必要があるので、運転ができない学生の身からすると生活していくにはやや不便である。


もちろんファミレス等といったものも近くに無いため、今回みたく外食する時は基本的には駅周辺まで出ていく必要がある。


「じゃ、行くか」

「うん」

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