第3話

「ただいまぁ~」

「おかー」

「なんだ、冬美しかいないのか」

「なんだとはなんだー」


美容院から戻り帰宅すると妹の冬美の声しかしない。

出るときは母親もいたのだが、どうやらどこかへでかけたらしい。


靴を脱ぎリビングへ入ると、だらしなくこたつに入ったままゴロゴロしている冬美がパッとこちらを見る。


「……え、マジ?」

「なんだよ、マジって」


お前が切ってこいと言ったんだろ。

俺かってこんな前髪がないの、マジ?って感じだわ。


「ちょーイケてるじゃん! メガネありでこれはなかなかだよ、お兄ちゃん!」


バッとこたつから出て立ち上がる冬美。

そのまま俺の顔をジロジロ見ながら、唐突にスマホを取り出す。


「あ、おいお前。写真とるつもりじゃないだろうな」

「そりゃ、とるでしょ。こんなの仮○ライダーばりの変身見せられたら、思わず撮っちゃうね、うん」

「一人で納得してんじゃねえ、恥ずかしいからやめろ」

「えーいいじゃん、一枚くらい。別に拡散するわけでもないのに。記念だよ、記念」


記念って……。

それにコイツの拡散しないは信用ないんだよな。前もいつの間にか撮られた写真をSNSであげてたし。


まぁでも、せっかく髪も切ったし一枚くらいなら……


パシャ


「あ、おい、まだ許可出してないだろ」

「……沈黙は肯定だよ、お兄ちゃん」


フフフと勝ち誇った笑みを浮かべながら撮った写真を見る冬美。


「おーいいじゃんお兄ちゃん、自分でも見てみ?」


手に持ったスマホをこちらに向けてくる。

そこには学生服を着た俺がただ突っ立っている写真。


「こ、これが俺……」


いや自分で言うのもキモいよ。

そんなことは重々承知している、承知しているが、……普通にカッコいい。

髪型だけで人間、ココまで変わるものなのか。と驚くほどだ。


「いいでしょー。じゃ、さっそくイ○スタに投稿するね」

「あ、おいお前、約束と違うじゃねえか」

「いいから、いいから。」


俺の意見なんざ最初から聞く気なんてないのだろう。

なれた手付きでスマホを操作していく冬美。

ちなみに俺はSNSをやっていない。


「……完了」

「何か批判があったらすぐに消せよ。俺はそういうのは豆腐メンタルだからな。……死ぬぜすぐ」

「なんで自信満々なのよ……」


残念ながら妹の凶行を止める事はできなかったが、俺自信髪を切って良かったと素直に思っている。

イ○スタには投稿されたが、妹には感謝しかない。

センキュー、冬美。


その後は夕飯の食材を買いに行っている母親を待ちながら、兄妹でこたつぬくぬくタイムに入っていると、不意に冬美のスマホが鳴る。


「おっ、早速反応あったよお兄ちゃん」

「え、マジ? なんか怖いんだけど」

「どれどれ……あーメンクイの佐奈さなか」


なんだよメンクイの佐奈って。


「気をつけてねお兄ちゃん。完全にお兄ちゃんを狙ってきてるよ」

「いや、気をつけるも何も、お前が投稿したんだろ。しかも何だよメンクイの佐奈って」

「あっそうか、お兄ちゃんと私、中学から学校違うもんね。佐奈と私は中学も高校も同じで、学校でもイケメンにしか会話しない。SNSでもイケメンにしか反応しないっていう徹底したメンクイモンスター。もちろん嫌われてる」

「……そんなやついるんだお前の学校」


確かお前の高校のほうが偏差値も高いし生徒も大人しいと聞いてたけど。


「まぁ、逆に言うと佐奈が食いついたってことは、今のお兄ちゃんは間違いなくイケメンになってるってことじゃない。良かったじゃん。」

「まぁ、確かに光栄だけど、なんか怖いな佐奈ちゃん」

「今彼氏もいない筈だからね。ターゲットにされるかもね。今どき珍しくギャルギャルしてるからね、佐奈は」

「へぇー。今どきいるんだな。そんな子」

「うちの学校でも流石に佐奈くらいだどね。まーとりあずデートしてきたら?」

「はぁ? 嫌だよ。そもそも連絡先知らんし」

「大丈夫、電話番号とIDはもう教えておいたよ」


……は?


「いや、お前マジ何してんの!」

「だってぇ……連絡先教えて欲しいって言われたから」

「『だってぇ…』じゃねぇよお前。……兄の個人情報をなんだと思ってんだ」

「ま、ぶっちゃけなんかおもしろそうだから教えた」

「さ、最悪だ……この妹」

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