第2話

翌日、冬美から指定された美容室へと向かう。

ちなみに普段どおりジャージで家を出ようとしたらぶん殴られたので、仕方なく部活帰りの高校生の体で制服に着替えた。


電車に揺られて10分、徒歩5分の先にある美容室はそれなりに人気らしく、中々予約が取れないらしい。

ましてや当日の予約なんて以ての外らしいが、冬美が朝頼んだら入れてもらえた。


一体何者なんだ、冬美よ……。



そんなこんなで緊張しながらも美容室に着いた俺は早速中に入る。


「いらっしゃいませぇー」


すると出迎えてくれたのはキレイな女性が一人。

女性にしては背が高く、黒髪をポニーテールでまとめ上げている。

ジーパンにシャツとシンプルな服装だが、これがまた抜群に似合っている。


いかにもデキるお姉さんという感じだ。


「あ、よろしくおねがいします」

「うん。よろしく~。冬美ちゃんから聞いたけど、お兄ちゃんなんだって? 」

「あ、そうなんですよ」

「へぇ~、たしかに良く見ると顔立ちとか似てるね~。髪でよく見えないけど」


まだ座ってもないのに、グイグイ来るなこの人。

ワタシ、コノヒトチョットニガテカモ……。


「ごめんごめん、じゃ、この席座って」

「あ、はい」


言われるがまま一番奥の席に座る。

目の前には鏡が設置されているので、久しぶりに自分の顔をみる。

すると確かにひどかった。

ここまで伸ばし放題だっけ俺。

もう眼とか完全に隠れてるじゃん。


うわーと思わず自分でも引くほどの有様である。


……そりゃ振られるわ。


「どうしたの、ずっと顔見て」

「いや、ここまでひどかったのかと思って……」

「確かにひどいねー」


ハッキリ言うな。


「でも冬美ちゃんから電話で言われてたから安心して」


何に安心したらいんだ?

引かないですよーの安心なのか?

それとも髪切ったらマシになるよという意味の安心なのか。


そんな心配を他所にお姉さんはテキパキと準備を整えていく。


「……じゃあ、髪型どうしますか?」


……来た。


美容師からの怖い質問NO1。


『髪型、どうしますか?』


ハッキリ言おう。


──知らんがな!


今までいつもの所しか行ってないのだ。

何も言わずに切り始めてくれたいつもの店主しか俺は知らないのだ。


でも大丈夫。

冬美から魔法の言葉を教えて貰っている!


「あの~。よく分かんないんで、おすすめでお願いします」

「はーい♪」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「はーい、終わりましたよ」

「あ、ありがとうございます」

「かっこよくなってますよ、お兄ちゃん♪」

「あ、はい……あざす」


終始このテンションのお姉さんに押されながらも、さすがは人気店。

腕は確かなようでまるで魔法使いのように俺のイメージが変わっていった。


ボサボサだった髪はトップが長めに、サイドと襟足は短めにカットさた、俗に言うツーブロックに。

眉も整えられ、自分で言うのも恥ずかしいがそれなりに、本当にそれなりだが、カッコイイ……かも。


「うんうん、よく似合ってる。やっぱり兄妹だね、目とかそっくり」

「あーほんとですか。初めて言われました」

「そりゃ、髪で見えなかったからね」

「ははは……」


バッサリである。さすがは美容師。

まさにそのとおりである。


────


「ありがとうございました」

「はーい、また来てねお兄ちゃん。……ああ、あとこれ私のID。よかったら登録しておいて」

「はえっ!?」


え、なに。ぎゃ、逆ナン!?


「あはは、顔真っ赤にして可愛いねぇ~。残念だけど営業だよ~」

「そ、そそうですよね~、あはははは」

「……ま、気に入った人にしか教えてないケド」

「え、」

「じゃ、また来てね~♪」


カランカラン♪


そういい、有無を云わさず肩を押され退店させられる。


外はいつのまにか夕焼けに変わっていた。

いい感じに赤くなった街並みが妙にノスタルジックを感じる。


「……いい匂いしたな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る