高校デビューに成功した幼馴染彼女に振られた俺は諦めることが出来ずに……。

下洛くらげ

第1話

「別れたいの。……いや別れて」


そう言い放つのは幼馴染でもあり彼女でもある桜町さくらまちあおい

高校入学して1年が経ち、高校2年目のGWが始まる前日。

放課後公園に呼び出されたと思ったらこの状況である。


彼女とは幼稚園の時から一緒で中学2年の時に俺から告白し付き合うことができた。

どちらかと言うと中学の時は地味だった彼女はよく俺とお似合いの地味カップルとからかわれていた。

それでも俺は楽しかったし幸せだった。


それが高校デビューを決めた碧は、いつの間に派手目な女子へと変わってしまった。

もちろんただ派手なだけではなく、元より整った顔立ちをしていた碧はこの学校でも随一の美少女へと成長を遂げていたのだ。


別に地味だったから好きだったとかではなく彼女の性格に惹かれていた俺はいつのまにかデビューを決めていた彼女のことを気に留めてはいなかった。

しかし彼女は違ったのだろう。

もしかしたら友達からも言われたのかも知れない。


──地味な彼氏だと。


碧は要件だけ言うと、俺の回答を待たずして去っていく。

日が沈み、顔もよく見えないままの最後である。


どうやら俺、月見里やまなし夏己なつきは振られたらしい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その日の俺はもちろん一睡もすることは出来なかった。

何が駄目だったのか、何が嫌だったのか。

そんなことばかり考えてしまう。


部屋にこもると写真が今までの思い出を呼び起こさせる。

まだ友達だった頃。

付き合い始めた頃。

初めてのデート、初めての喧嘩。

二人して馬鹿した時はお互いの両親に怒られたこともあった。


「……ああー死にてぇな」


でもただ一つ。分かっている事がある。

それは俺がクソダセェやつだと言うことだ。


もちろん彼女からハッキリとした理由は聞いてはない。

デビューを決め中学時代とは打って変わって美人と人に言われるまで頑張った彼女に比べ、特に何の努力もせずにいた俺に嫌気が指していたのかも知れない。

思えば学校でも一緒にいることを嫌がっている素振りを見せていた事もあった。

その時から既に別れたかったのかも知れない。


それに気づかず俺は……。


「ああーだっせぇなー、俺」


……決めた。


俺も頑張ろう。

別に今更よりを戻そうなんて考えない。

ただ努力した姿だけでも見てもらうために。


そうと決まれば即日決行。

GWは5連休もある。

まずは俺の何が地味でダサいかを知ることだ。


自分の部屋を飛び出し、下まで降りると妹の冬美ふゆみがリビングで寝転がりテレビを見ている。


今年高校へ入学したばかりの冬美は兄目線から見ても美少女だ。

中学卒業時はラブレターを袋に入れて帰ってきたこともある。


兄妹だと言うのに一体何が違うのか。

しかし、聞くにはまさに最適な人材だ。


「あ、さっきまで泣いてたお兄ちゃんだ」

「……見てたのか」

「いや見てないけど、嗚咽漏らしながら帰って来たと思ったらそのまま部屋にこもるんだもん。バレバレ」

「まぁ、まぁ、それは忘れてくれ。お母さんには内緒にしてくれよ」

「……碧ちゃんに振られたんでしょ」

「やめてくれぇ!」


俺の心はまだ回復しきってはいないんだ妹よ。

というかすぐバレるなこいつには。

付き合い始めた時もすぐバレたし。

俺はこいつに彼氏がいるかなんて全く分からんぞ。


「まぁ、そんなダサダサじゃあねぇ……。時間の問題だったと思うよ。妹としても」

「やっぱりかぁ……。ま、それを聞きにきたんだ冬美。俺の何が地味でダサいと思う?」


すると「ようやくか」と呟いた後座り直す。

俺も併せて対面に座ると、ジッと顔を見る。


「まずそのボサボサのダッサい髪型。いい加減切ったら? というか前見えるのそれ? それにそのクソダサい眼鏡。コンタクトにしろコンタクトに」


……あ、泣きそう。


「……髪は切りに行くお金が無くて。あと、コンタクトとか面倒くさくて……」

「言い訳するなッ!」

「はいっ! すいません!」


冬美さん?

あなた私の妹ですよね?


「バイトもせずお小遣いをゲームにつぎ込むからお金がないんでしょ?」

「ごもっともです」

「今月のお小遣いはどうしたの?」

「課金につかってしまいました……ッ!」

「……」


ゴミを見る目で見つめる冬美。

言いたいことは分かる、分かるぞ冬美。

でも、辞められねぇんだわ。課金。

ほんま罪深いゲームや。


「明日、5月のお小遣いもらえるでしょ。それで髪切って。あ、あといつものクソダセェ床屋行ったらシバクから。あとコンタクトも。まずはそこから」

「待ってください冬美様。いつもの床屋以外に行く床屋なんてありません!」

「はぁ……、私がいつも行く美容室を予約しとくから、そこで切ってきて」

「でも一人で美容室はちょっと……」


おしゃれな空間に俺は似合わない。


俺には昔のジャンプ漫画が陳列され、一言目には今日は坊主でしょ?と笑いながら聞いてくる店主がいて、常時シェービングの匂いが漂うあの空間が好きなんだ。


「もう高校生でしょ! 」

「……はい」

「髪とメガネで隠れているけど、兄ちゃんも顔は良いんだから、それさえ直せばだいぶ良くなると思うよ……たぶん」

「たぶんはやめろ。不安になるだろ」


だいぶメンタルは削られたが、……まぁ、これでなんとか最初の一歩は踏み出せそうだぜ!

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