第13話

 3日目。今日はちょっとレベルアップよ!と連れられて来たのは、ちょっと禍々しさを感じる森だった。


「……スライムから大分レベルアップでは……?」

「大丈夫大丈夫、あたしたちいるし!どこまでいけるか把握するのも大事でしょ」

「まぁドラゴン倒してる時点で大抵のモンはいけるけどよ」

「いやー、それは2人の力があってこそだよ……ていうか、こんなとこで毎回気ィ失うまでやるのかー……」

「あたしたちとカホに任せなさいって!」

「まかせろー!」


 意外と言うか、果穂がびびらない。

 こんな暗い森こわいよお、と怯えると思ってたので、助かるけど、でもちょっとその……残念って訳ではないが、兄としてちょっと寂しさがないわけでは……


 昨晩、果穂にどうやって自然にシールドを張れたのか訊いてみた。

 僕は当然だが、ララとルルが教えたようではなかった。自分ひとりで出来るのはちょっと考えられない。


 あっさりと、観ていた魔法少女のアニメを答えられた。

 確かに……今季の魔法少女は攻撃魔法以外にも、シールドや回復魔法をメインとしたキャラクターもいた。

 確かプリンセスグリーンだったかな、果穂の推しキャラだ。

 何回プリンセスごっこに付き合わされたことか。でもそれで果穂に教えることなくイメージとして覚えさせることが出来たということか。

 有難い。大人相手でも説明しづらいのに、更に幼児にこんなこと教えにくいもんな……


 果穂にはお兄ちゃんとララとルル以外がいる場での魔法はシールド以外は3人に使っていいか訊いてから使うよう強く言っておいた。そうしないと1人だけ連れていかれるぞって。

 ……本当はそんな脅しのようなことを言いたくはなかったけど、本当に本当に本当にまじで、何かあってからでは後悔したって遅いから、それだけはお願いした。

 聖女様だなんだと果穂を取り上げられて酷使でもさせられてしまっては、僕はなんの為にここに一緒にきたのかわからなくなってしまう。

 幸い、にいにといっしょじゃなきゃやだ、と泣きそうな顔で約束をしてくれた。


「ところで今回の討伐対象は?」

「シルバーウルフだ」

「……スライムからレベルアップしすぎじゃない?」

「大量発生してるらしいから丁度いいかなって」

「……僕それ気を失う暇あるかな?」

「カホの補充が間に合わなかったら背負って逃げてあげるから大丈夫!ルルが」

「あ、はい」


 まぁ逃げなくても余裕だけどなー、と笑うルル。

 実物を見なくてもわかるぞ、狼みたいなやつだろ、そんなん大量発生どころか1匹でも恐ろしいに決まってるじゃないか……


「果穂大丈夫か?」

「ん、にいにいるからへーきー」


 ……そんなん言われたらお兄ちゃん頑張るしかないじゃないか~!

 兄とは本当に妹には色んな意味で弱いものよ……



「来る」

「いや1匹だな」

「はぐれかしら」

「よし1匹だな!」


 そうだそうだ1匹ずつ頼む、こっちは毎回魔力を使い切っては倒れを繰り返さないといけないんだからな!


「危なくなるまであたしたちは手を出さないからね」

「カホは任せろ!」

「お願いします!」


 2人の声と果穂のがんばれー!を背に受けて、足に力を込め、蹴る。


「たたっ切ってやる!」

「あっ駄目ー!」


 ルルの止める声は間に合わず、僕は剣を振り下ろしてしまった。


 なかなかデカい狼だ。

 正直ちょっと怖かった。

 でも断末魔を上げさせる間もなくスパッと斬り殺した僕に、2人の駄目出しが振ってきた。


「何で剣使うのよお!今のは魔法使って倒れるとこでしょ!」

「魔力増やせんぞー!」

「にいにかっこいー!」

「あっ」


 そうでした……

 出来るだけ気を失うのが目標でした……

 気を失うのが目標ってなんだよ……その通りなんですが。


「音からして近くに群れはないわね」

「これからも多分数匹から1匹で現れるぞ、心置きなく倒れてくれ!」

「はーい……」


 有難いお言葉である。

 剣を収納し、次にくるであろうシルバーウルフに備える。

 森の中だし、火は危ないかな、他の魔法を使うようにしよう。でもどうせなら色々使ってみたい。

 スライムではわかりにくかったからな、どの属性を使えばどう効果が出るのか、放出する魔力の調節……これは今の僕では難しいかもしれないけど。

 相手にあわせて適量の魔力、属性、組み合わせ。

 今のところ気を失っての回復の繰り返しで魔力の増加を目指しつつ、同時に自分の少ない魔力で何発の魔法を使えるか、弱い魔力消費でどれくらい傷をつけられるか。

 最大火力が今のところドラゴンを倒せるレベルまであるとしたら、そこまでの火力は必要ない。

 今の己の力量を見極める。大事なことだ。

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