第10話

「ユートはカホと離れたくないわよね?」

「当然だろ!」

「カホがもし聖女だったら取り上げられるぞ」

「取り上げられる?」

「聖女様は溢れるような魔力を持ち、皆を癒して下さる方。国の為にその力を使い、国の為に生きるの」

「……」

「どこの国が聖女を見つけられるか……場合によっては戦争よ」

「……」

「……」

「どうかこのことはご内密に頂けないでしょうか……」

「……カホが聖女だと決まってはないしね?」

「……ただの魔力が強い子供なだけかもしれないしな」

「そうです、ただのちょっと魔力が強いだけの……」


 3人とも少し視線を泳がせつつ、果穂にネックレスを取らせないよう強く念を押した。


 とんでもないことになった……

 まさか僕がチートではなく、果穂がチートだったなんて。

 そういやあの声、果穂には別の使命があるとかなんとか言ってなかったっけ。

 ……いやいやいや僕と同じ世界に来たんだから色々なくなったらかもしれない。本当にただ魔力がちょっと高いだけなんだろう……うん……


「あ、これも付けててほしいわ」

「ブレスレット?」

「ユートも付けて」


 シンプルな輪っかになったブレスレットを渡された。

 不思議なことに、果穂の細い腕にフィットするよう縮んだ。


「このブレスレット対になってるの。もしはぐれたりしたらお互いの場所がわかるようになってるから、カホ、これも外しちゃだめよ」

「まいごにならないように?」

「そうよ」

「おねえちゃんになったみたい!ありがとー」

「なんか貰ってばっかりで……いいの?何も返せないよ」

「どうせ使わないし、コレクションや売るだけなら必要な人が使った方がいいでしょ」


 それに、とララが笑う。


「あたしも助けて貰ったし!」


 眩しい。

 もうララもルルも果穂も眩しい。

 やはりこの世界はとんでもない世界だ。




 話し込んでる内に空がオレンジに落ちてきたので、宿に戻りましょう、とララが立ち上がる。

 少しふらつく僕を、ルルが支えてくれた。……触れた尻尾がふわふわで、くそ、こんなの卑怯だろ、と思った。

 イケメンなのにかわいい要素有りとかこんなん向こうの世界だとモテてモテて仕方ないぞ……


「途中からカホの話になっちゃったけど」

「うん?」

「ユートも多分すごいと思うのよね」


 眠そうにしてるカホを抱き抱えたララがさらっと言う。


「すごい……とは」

「魔力少ないとはいえ、咄嗟の時に出る火力と、状況判断が早いところ、あと使い分けかな」

「はあ……」

「あの時、また火を出したらカホに当たる!って思ったでしょ」

「うん、火傷させちゃうって」

「だからカホに被害が出ないよう、対象だけを凍らせた。結果カホはなんにも被害がなかった」

「よかったよ」


 そこよ、とララがぐいっと顔を寄せる。ルルにぶつかり支えられ、大丈夫かと声をかけられる。

 ひえ、美少女とイケメンのサンドイッチは心臓に悪い。


「あの短時間で考えられるのは早いわよ、ドラゴンの時もだけど、近くにいたルルでも間に合わない、って思ったもの」

「それは多分剣だからじゃないかな?物理的に間に合わないから、距離があっても間に合う魔法の方が早かったっていう」

「それもあるけど。この世界に慣れてない筈のユートが咄嗟に出した反応がすごいって話よ」


 本当にこの世界に来たばかりなの?と疑いの目。

 そうです、昨日飛ばされたばかりです……


「明日はどの属性が使えるか練習してみましょ」

「属性?火とか氷とか?」

「そうよ氷は水魔法の応用ね、だから咄嗟に出たのにびっくりしちゃった、さっきまで小さい炎すら出せなかったのに、カホのピンチにはあっさり出しちゃうんだもの。カホの王子様ね」


 寝息を立て始めた果穂を見下ろしながら、優しい声色で呟くララ。

 ……ああ本当に、この2人に会えて良かった。果穂のことを本当に心配してくれてるのがわかるから。

 仮に果穂が聖女だったとしても、この2人なら裏切らないだろう、そう確信出来た。

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