第9話
「ユート!起きて、ユート!」
「にいに……」
「……」
眩しい。色んな意味で。
どうやらまた気を失ってしまったみたいだった。僕って意外と繊細だったんだろうか。
木陰に移動させてくれたらしい。
「果穂は……」
「大丈夫よ、っていうか、それより」
「にいに~!」
「あなた魔力めちゃくちゃ低いのね!」
「えっ」
抱きついてくる果穂を撫でながら驚いてしまう。
まさか。えっ、こういう時ってチートがお約束なんじゃないか。僕は死ぬ筈じゃなかったからお詫びのここでの生活だったのでは?
あれ?果穂と一緒にいることを選んだからそういうサービスはなしってことなのか?え?じゃあ僕もしかして最弱だったりする?
「1回魔法使う度に気を失ってたら命が幾つあっても足りないわよ」
呆れたように言うララ。つまり、それってことは。
「さっき僕魔法使えてた!?大丈夫か、果穂、火傷してないか!?」
ドラゴンを焼き尽くす火力が本当なら、果穂も少しくらい火傷をしていてもおかしくない。
果穂を引き剥がして、腕や足、髪の毛を確認してると、またララが溜息を吐いた。
「氷よ」
「こおり」
「凍らせたの!火じゃなくて!」
「こおらせた……そっか」
そっかー!じゃあ果穂に被害はないってことだな!
咄嗟の判断、やるじゃん僕!
「あのねえ!言いたいこと、たくさんあるのよ!まず!」
「はい僕の魔力が低いです」
「そうです」
ララの距離感が果穂並なのが困る。
向こうの世界でここまでぐいぐい来る子はなかなかいないぞ……
こんな雑誌から飛び出てきたような美少女、誰でもどきどきしてしまう。
いや、ルルでもどきどきしてしまう。
「魔力が低い癖に、1回の魔法が火力でかすぎるのよ、だからすぐ尽きちゃう、っていうか1回で倒れちゃう」
「はい……」
「まずはコントロールできるようになることね、たかが初級モンスターにドラゴン討伐並の火力はいらないの」
「はい……」
「魔力も人並みには増やしたいわね……」
「出来るの、そんなこと」
「時間はかかるけどね、魔力を毎日使い切って、容量を大きくしてくの。これは本当に時間かかるわよ」
魔力、筋肉みたいなやつだな……
「あと」
「まだある~?」
「カホの魔力が異常……」
「異常!?何か悪いとこがあるのか!?」
元気そうだけど!
病気になったり爆発したりしないよな!?
「……こんなに魔力持ってる人初めて見た、危ないわよ」
「危ない!?どう危ない!?」
「悪い人に狙われる」
「悪い人に狙われる!?」
こんなにかわいい子が悪人に狙われるだと!?
どこかに仕舞っておくべきなのか!?
「魔力を使い切ったユートに魔力を与えて起こしたのはカホよ、普通ならユートはまだ起きれない筈」
「そんな……」
「カホはまだ小さいし、隠しておくべきだと思う……ユートも魔力使いこなせてないし」
「どっか山とかに篭った方がいいかな」
「それはちょっと……」
これをあげる、とララがネックレスを見せてくれた。
「魔力を抑えてくれるの。これをつけてれば、歳の割に魔力が多い子……くらいに見られるんじゃないかな」
「こんなものどこで……売ってるの?」
「どこだったかな……西の方のダンジョンだったかな」
「東じゃなかったか」
そうだっけ、と会話をしながら果穂にネックレスを付けてくれる。
果穂は嬉しそうにもらっていいの?と訊いていた。
「いいよ、かわいい、にあってるわよ」
「へへ」
「果穂、ありがとうは?」
「ありがとララちゃん」
「ふふ」
アクセサリーに喜ぶのはやはり女の子だなあ。
屋台に色々並んでたし、かわいい髪飾りでも買ってやりたい。
……ちょっと待って、ダンジョンとかあるんだ、しかも今の会話の感じだと幾つもありそうな……
はー……話を聞けば聞くほどファンタジーだ。
まぁ果穂を連れてそんな危険なところに行けないので僕達には関係のない話ではあるけれど。
「それにしてもあれだなー、カホは聖女様みたいだな」
「聖女?」
聖女までいるのか。
皆を癒す的な?おお、なんかいいな聖女様。
モンスターに近付いていくより後方で怪我を治してくれたりする方が安心でもある。
「そういえば近々現れるって噂あったわね」
「……」
「……」
「?」
「あたしは……あんまり……」
「俺もそう思うぞ」
「え?何?」
表情の曇った2人に不安になる。
聖女って何か悪いのか?なにかある?
わからないことだらけだ。
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