第8話

 何着かララに選んでもらい、その場で着替えさせてもらった。

 これで暫くは衣装に困らないだろう。……洗濯ってもしかして川かどっかでやるのか?後で聞こう。


「一度宿に戻って……」

「なんで?忘れ物でもした?」

「この服持ち歩くには邪魔だから」

「収納すればいいじゃない」

「収納?」

「収納の仕方もわからないの?ほら、こうやって」


 ずる、と何もない空間からアクセサリーを取り出したララ。

 ぽかんとする僕と果穂をみて、今度はルルが大剣を取り出した。


「……わかる?」

「……わからない」

「……魔力の大きさにもよるんだけど、少しの荷物なら空間保存が出来るの。だから旅人でも最低限の荷物で出歩けるし、大事なものは盗まれることもないのよ」

「……ど、どうやってその収納できるのかわからない」

「イメージするの、ここに収納するって」

「えー……」

「とりあえずこれはあたしが預かっとくわ。時間が勿体ないし、これは宿に戻ってからでもいいでしょう」

「うん……」


 魔法って、イメージでするものなのだろうか。

 ファイヤー!みたいな詠唱したりしなくていいのだろうか。

 いや、昨日ドラゴン燃やしたらしいけど僕詠唱なんかしてなかったもんな……


「ちょっと待ってて」

「あ、うん」


 考え込む僕を置いて、ララが何か建物の中へ入っていった。

 ここは何屋さんなんだろうか。武器屋とか?

 ルルが持ってる大剣……あんなもの僕に扱えそうもない。

 だからといってナイフのような小さいものでは、そんな至近距離でドラゴンみたいなモンスターとは戦えないし……

 弓……そんなもの当てる自信がない。

 日本刀……いやいやないでしょ、槍……それならなんとか?

 うーん、でも果穂がいるならやっぱり魔法でどうにか……


「お待たせー!」


 5分もしない内に、ララが戻ってきた。

 そして笑顔で行くわよ!と言う。


「くそ雑魚モンスターの討伐よ!」

「……」


 どうやらいきなり戦闘らしい。




「いーい?さっきも言ったでしょ、イメージするの、イメージ」

「うん……」

「ドラゴンを倒した時みたいに、燃やし尽くすぞ!って」

「ん……」


 あの時そんなこと思ったかなあ。

 とにかく必死だったことしか覚えてない。というか記憶がないんだけど。


「ん~……!」


 手のひらから火を吹き出すイメージ。

 漫画やゲームでたくさん見た筈だ。実際出したらしいし……でも出ない。

 なんてこった、僕には魔法のセンスがないのか。


「……出ないわね」

「……出ないですね」

「まさかあの時火を出したのはカホ?そんな、でもあの時感じたのは確かにユートの魔力だったし……位置的にも……」


 ぶつぶつ呟きながらララが考え込んでいる。

 出来の悪い生徒で申し訳ないです。


「にいにー!こっちなんかいっぱいいるよお、ぷるぷるしてるやつー!」


 そんな中、ルルと遊んでいた筈の果穂が楽しそうに僕を呼ぶ。

 ぷるぷるしてるやつといえば、まさにくそ雑魚モンスター、スライムではないか。

 なるほど、それなら僕でも倒せそうだ!……いや待て魔法まだ使えてないじゃないか。

 武器もないし、踏み潰せば或いは……待て待て待て踏み潰すって結構ハードル高くないか?グロ注意じゃないか?

 スライムをぶちゅっと踏み潰すとどうなるんだ?

 寒天を踏み潰したようになるならいいけど、内蔵とか出てきたら……果穂にはとても見せられるものではない。


「待って、カホ、それ触っちゃダメ!その色は毒があるの!」

「え」

「えっ」


 ララの鋭い声につられて、果穂が触ろうとしてる、ぷるぷるしてるやつに目を向ける。

 確かに毒々しい色をしたスライムのようなもの。

 ララの声を受けて、触ろうと伸ばした腕をぴたっと止めた果穂だったが、それも遅いとばかりにスライムの方から果穂に寄って行くのが見えた。


「危ない!果穂、下がって!」


 言うが早いが、スライムがぴょん、と果穂の方へ飛び……

 間に合わない。火は果穂に当たってしまう……



 そして僕はまた気を失ったのだった。

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