第5話
「中断してすみません、ところでその、僕がトドメを刺したって……」
「ああ、すごかったのよ!ルルが首を落としたでしょ」
「うん……それで、らララ……さんがこっちを向いて、そっから記憶がなくて」
「ララとルルでいいわ!そう、そこからなのよ!ルルが首を落として、それで倒したと思ってたのよね」
だってドラゴンとはいえ首を落としたら普通死ぬじゃない!と熱く語るララが、最初に感じたしっかりした女性ではなく、思ってたより幼い少女のようにも感じた。
「油断したあたしも悪いんだけど、完全に倒したと思ったのよね!そしたらルルが危ない、後ろ、って言って振り返ったら首のないドラゴンに踏み潰されそうで」
「はあ……」
そこからどうやって僕が?思い当たる節がない。
「ルルも間に合わない、って思ったんだけど!ユートが燃やしてくれたのよ、ゴオッて!」
「燃やして……?」
当然ながらライターもマッチも、火の元になるようなものなんて持ってない。
「あの火力!あたしびっくりしちゃった!助けようと思ったのにまさか助けられるなんて!」
「まっ……待って下さい!僕そんな力ないです!」
「でもユートの魔力を感じたわよ、あれはカホの魔力じゃなかった」
「魔力!?」
ここがファンタジーの世界で、ララとルルが獣人という普通ではないことまでは無理矢理意識しても、僕と果穂の魔力ってなんだ!?僕達は日本人で、魔法なんて使えない一般人だ。
「……ユート頭打った?」
「……打ってない、と思う……気が付いたら森にいたから絶対ではないと思う、けど……」
「うーん?でもたんこぶは出来てないね?」
後頭部をさわさわと撫でながら、ララが不思議そうな顔をする。いやだから近い。いや本当近い。まだ2人の顔面偏差値に慣れてないんだ、心臓に悪い。
「記憶が混乱してるのかな?」
「……そうかもしれない、けど、その、びっくりさせてしまうと思うんだけど」
「?」
「僕と果穂はこの世界の人間じゃないんだ」
「え?」
「僕たちもよくわからなくて。でも、この世界で生きていかないといけないみたいで」
「……こういうのよくあるのかな?」
「わからん……俺もあんま聞いたことない」
「だよね?」
ララとルルも首を傾げる。うっ、こういう所まで絵になる。
でもこの世界がファンタジーだからだろうか、最終的には割とあっさりと、2人は納得してくれた。
「じゃあユートとカホはわからないことがいっぱいなのね」
「そうなんだ、その、このお金の価値すらわからない」
「ドラゴンはAランク以上じゃないと討伐任されないの。うーん、ランクとかもわからない、かな、それはまたおいおいね。結構強いってこと。だからこの報酬も大目よ」
「はあ……」
「ここの宿泊代と、数ヶ月は何もしなくても持つな」
「えっそれって!」
結構な金額なんじゃ……
ただの高校生の僕には大金である。やばいちょっと怖くなってきた。
「……ねえユート」
「うん?」
「わたしたちあと数日ここに泊まる予定なの」
「そうなんだ……」
「もしよかったらなんだけど」
「?」
「俺達が色々教えてやろうか!」
「あっルル、あたしが言おうと思ったのに!」
2人の願ってもない言葉に、反射的に頷いてしまった。
「宜しくお願いします!」
自分の魔力のこともよく分からない僕に、明日教えてやるよ!と2人は隣の部屋へ戻って行った。今はまだ眠る果穂と2人きりだ。
正直果穂がいなければ、こんな世界でもどうにかなると楽観的にもなれたかもしれない。
でも果穂がいる。あんな糞みたいな親でも、果穂にとっては大好きな母親で、保育園には友達もいて……
こんなドラゴンがいる世界では安心して暮らせるようになるのだろうか。
果穂がいて良かった。僕が守る。そう思ってる。だけどやっぱり不安だった。
僕が守れるのだろうか。
僕が、果穂を。
違う。
守らないといけないんだ。
この世界で、果穂を。僕の妹を。
安らかな寝息をたてる果穂に、誓う。
絶対に、果穂を守ると。
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