第4話

「あ、起きた」

「大丈夫?」


 見慣れない天井に混乱していた僕に、男女の声が降ってきた。


「……?」


 ここは……

 硬いベッドの上。周りを見ると、果穂が僕の手を握りながら横になっていた。


「果穂!」

「大丈夫よ、寝てるだけ。泣き疲れたみたい。あなたから離れようとしないから横に寝てもらってたの」


 確かに、すうすうと寝息が聞こえる。安堵した。

 良かった、果穂が無事で。

 泣いたような跡もあるし、目の周りは真っ赤だけど、苦しそうではない。


「あの……なんかよく、その、わからないんですけど……でも……その、ありがとうございます……」


 男女の方へ振り返り、頭を下げる。

 ドラゴンを倒してくれて、ここまで連れてきてくれたってことは悪い人じゃないのだろう。少しは安全な場所であってほしい。


「そんな!全然大丈夫だよ!頭を上げて」

「お前らすっごく軽かったぞ!ちゃんと飯食え!」


 そんな2人の声に、ああ、やっぱり良い人だ……と顔を上げた僕はまたぎょっとしてしまう。


 赤茶色の長い髪の、ゲームの世界のような衣装の女性と、同じく赤茶色の髪をした、長身の男性。

 その2人には、大きな耳と揺れる尻尾がついていた。


「み、耳……」

「えっ今!?いや、そのあたしたちは」

「悪い獣人じゃないぞ!」

「悪い獣人もいるの!?」

「言葉の綾です!」


 ぴぴぴ、と揺れる耳。どうみても本物だ。

 やっぱり、ここはゲームや漫画のような世界。

 あの響く声が言っていた、違う世界でやり直しを、というのはまさかこの世界で……ってことか!?


 漫画で見たことあるぞ!これは異世界ってやつなのか!?どう考えても日本じゃない!


 待て待て待て、僕もその手のことは詳しくない。

 漫画で見たことあるのは転生……いや生まれ変わりではない、鏡を見てないから自分の顔はわからないが、果穂を見る限り生前と変わりがない。

 召喚?いや召喚ってなんか立派な神殿とかに呼ばれるものでは……僕達森や砂漠みたいなとこに飛ばされてたし。

 前世……生まれ変わり……はこの世界の人間ではない。僕と果穂はちゃんと日本にいた。

 漫画やゲームの世界……覚えがない。でも僕が知らないだけかもしれないし、まだドラゴンしか見てない。目の前の猫耳美少女とイケメンは見覚えはないが、まだはっきりと違うと言える証拠がない。保留。

 いやいやいやじゃあ結局なんなんだよって……


「大丈夫?頭痛い?」

「あっいや!大丈夫です!ここどこだろうって考えてて」

「宿よ」

「そういう意味では……」

「倒れちゃったからあたしたちが泊まってる宿に連れてきたの」

「運んだのは俺だぞ」

「ありがとうございます……」


 覗き込んでくる猫耳美少女。近い近い近い!

 すごいな、やっぱりこれゲームか何かの世界なんじゃないか。めちゃくちゃかわ……

 んん!猫耳男性の方も顔が整ってる。……なんか緊張してきた。


「あの!助けて下さってありがとうございます!僕……えっと悠斗ゆうとです。こっちは妹の果穂」

「ユートとカホね!あたしはララ。こっちは兄のルル」


 ……名前の響きがかわいい。

 ララはともかく、このイケメンがルルだなんて。この世界では普通かもしれないけど。

 少しおかしくて、笑ってしまった僕に、2人が安心したような顔になったのがわかる。


「そんでこれはユートの分ね!」

「?」


 ずしりとした袋を渡された。

 なんだこれ。開けていいのか?ドラゴンの首とか出てこないよな?


「……お金?」

「半分こでいいよね?」

「いや、なんでこれ……」


 キラキラ光る金貨……なのだろうか。この世界の通貨がわからないから幾らになるのかかわからない。


「あのドラゴン、あたしたちが依頼されてたモンスターなの」

「はあ……」


 そんな世界線なんだな……そうだよな、あんなのいたら誰か退治しなくちゃいけないよな。

 ギルドとかあるのだろうか、勇者や魔法使いもいるのかな……


「助けもらったのに……寧ろ払わないといけないのは僕達の方では……あの、無一文なんですけど……」

「?横取りしたからってこと?そんなのいいわよ、あ、全額渡せってこと?首を落としたのはルルだからその分はって思ったんだけど」

「横取り……?」

「……?」

「……?」


 首を傾げる僕達に、ルルが呆れたように口を開いた。


「トドメを刺したのはユートだぞ、まさか覚えてないのか?」

「……どういうこと?」


 襲われそうになった果穂を見つけて、間に合わないと思っていたらララが助けてくれて、僕に果穂を渡した。

 ルルがドラゴンを攻撃して、首を落として、ララがこっちを向いた瞬間、首のないドラゴンが動いて、それから……


「……覚えてない」

「嘘でしょ」

「すげーな」

「だってトドメを刺したって僕、何も持って…… 」


 そうだ。学生鞄すらない。果穂も手ぶらだったような気がする。感触からいうとスマホがポケットの中に入ってると……


「あっスマホ!」

「すまほ?」


 ポケットがから出し、タップする。電源はつく。

 溜息が出た。当然ながら圏外である。

 試しに1番上に出てる友達にかけてみる。繋がらない。ネットも繋がらない。チャットも、メールも。

 こうなってしまうとただの写真を見るだけの機械だ。時計もあってるのかもわからない。


「なぁに、それ」

「……ゴミになってしまったみたい」

「壊れたの?捨てる?どこか修理出来るとこあるかしら……でもこんなの、見たことない」

「大丈夫、このまま持っておくよ」


 またポケットにしまう。

 果穂の写真もたくさん残ってるからな。使えないとはいえ、残しておきたい。

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