第3話
「ん……」
なんだか、ざわざわ煩い。森にいるかのような。音と、においが、する。
何時だ、今……
枕元のスマホを探すように腕を伸ばして、やっと覚醒した。
「果穂!」
飛び起きてびっくりした。
……どこだ、ここ。
森だ。いや何でだ。さっきまで白い箱の中に……いやそれもおかしいんだけど。
なんかあの、声がやなんか言ってた気がする。そこまでは思い出せるのに、肝心の内容が思い出せない。
いや、だから今はそんなことはどうでもよくないけどどうでもいい!
また果穂が傍にいない。
「果穂ー!」
まさか、さっきの果穂と一緒に、という願いは結局叶わなかったのか。
いや、さっきのこと自体が夢だったのか。
でもこの状態はどう考えても普通では……
焦りながら立ち上がり、当たりを見渡す。
とりあえず探さなくては。
あんな小さな子を、こんな森にひとりになんかさせられない。
どうやら深い森ではなかったらしい。あと少しで森から出られそうだ。
1度出てみて、近くにいそうになかったらまた森に戻ろう。そう決めて足を急がせる。
果穂が泣いていたらどうしよう。
急にこんな目にあえば不安で寂しくてこわいに決まってる。
早く、早く見つけてあげないと。
あと数歩で森を抜ける、その瞬間だった。
こどもの悲鳴が聞こえた。
果穂の声だ。
どうした、何が起きた、虫か、変な奴か、幽霊か怪獣か、
足が縺れそうになる。
果穂、果穂、果穂、兄ちゃんすぐ行くからな、あと、少し……
視界が明るくなる。森を抜けたその先は、一面茶色の、砂埃が舞う荒れた地だった。
次いで僕の視界に飛び込んできたのは座り込んで叫ぶ果歩と、その目の前にいる、でかい怪物。
「ド……」
あれは、ドラゴン、なんだろうか。
「果穂!」
「やぁあ!にぃ……」
走りながら名前を叫ぶと、果穂がこっちを見て、震える手を伸ばす。動けないようだ。
ドラゴンのようなものも唸りながら、そのでかい躯で果穂に近付く。
だめだ、間に合わな……
「果穂……!」
「……!」
その瞬間。
何かが光り、何かが飛び、果穂を抱えた。
「あんたの連れでいいのね!?」
女性の声と、それと同時に腕の中に果穂を投げられた。
「えっ」
「う」
目の前で繰り広げられることに頭がついていけない。
僕にただ出来るのは、今確実に腕の中にいる震える果穂を抱き締めるだけだった。
ギャオオ、とテレビでしか聞いたことのない叫び声。
先程の光は、男性の持つ、大きな……あれは大剣だろうか。大剣を軽々と振り、ドラゴンの躯に傷を付けていく。
「コイツ結構脆いぞ!」
「いいから早く倒しちゃって!小さい子もいるのよ!」
「あーそっか、今はダメだな」
あんなでかい化け物が脆いだって?なんなんだこの世界とこの人達は。
うわああん、と泣く果穂に、大丈夫だと声を掛けるがその声が震える。
なんなんだ、本当になんなんだここは。
まるで……まるでゲームや漫画の世界ではないか。
「これで終わり、っと……」
振り上げた大剣が、ドラゴンの首を落とした。
砂埃をあげ、首が地面に落ちる。
「……!?」
「大丈夫?投げちゃってごめんなさい、その子、怪我してない?」
「あ……」
女性が長い髪を靡かせながら振り返る。
こちらに手を差し伸べながら話しかけてきた瞬間だった。
「ララ!」
「危ない!」
「え」
首を落とした筈のドラゴンの躯が動いている!
僕達の方へ向けて。逃げる暇などない。
皆死ぬ。また。死ぬ。
僕は果穂を強く抱き締め、そのまままた、暗闇へ落ちた。
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