第2話
どん、という衝撃音と、ごん、という硬い、ぶつかった音。
「果穂!」
今、嫌な音がした。頭、頭を打ったんじゃないか?
「か、果穂……果穂!」
こどもの頭は柔らかい。すぐにどこかにぶつけては、たんこぶ出来た、と泣くんだ。
──泣かない。起き上がらない。
「果穂!!」
悲鳴の様な声がする。
周りの人なのか、自分の声なのか分からなかった。
道路に横たわったままの果穂に走り寄り、体に触れた瞬間、更に酷い悲鳴と、ブレーキのような音がし、視界が真っ白になった──
「……?」
死んだ、と思った。
絶対今のは、車に轢かれたのだと。
でも痛みが、衝撃が来ない。
もしかして、今のは車が上手いこと避けた音……?
目を閉じていても眩しい。車のライトか?そっと目を開ける。
「は……?」
世界が、真っ白な箱の中だった。
「えっなに……えっ?は……?」
混乱する。ここはどこだ。当然だがこんな真っ白な眩しいところは知らない。
いや、今はそんなことより、果穂だ。
僕は車に轢かれなかった。
でも果穂は?すごい音がした、血は出てないか?出てなくても頭は危ない、すぐに病院に連れていかなくては。救急車、救急車はどう伝えて来てもらえばいいんだ?
「果穂……?」
腕の中に果穂がいない。
さっき絶対に果穂に触れたはずなのに。
どっかに移動したのか……?
なら果穂は元気なのか……?
「果穂!どこにいる!?お兄ちゃんここだぞ!」
そう叫んでみたが、果穂が見当たらない。
おかしい。こんなに、ただ真っ白な世界なのに。すぐ見つかる筈なのに。
「なんで……」
わからない。
何が起きてるのかわからない。
こんな真っ白の世界も、自分がこんな所にいる理由も、果穂がいないことも。
やっぱり僕、死んだんだろうか……果穂は助かったんだろうか……
──そうです、貴方は命を落としました──
「!?」
響くような声がした。
どこから?え?命を落としました?死んだ?
「だれ……」
──貴方は命を落としました──
「いや、えっ生きてるじゃん、何これ、何かふざけてるやつ?果穂は?なんでこんなとこに?」
──いいえ、貴方は命を落としました、私に説明をさせて下さい──
スピーカーなど見当たらない。
頭がくらくらする。体は痛くないのだが。
周りをきょろきょろ見渡していると、私の姿は見えませんよ、とまた声が響く。
「説明はしてもらうけど……それより先に果穂……妹は?果穂はどこにいる?生きてるのか?どっか違うところにいるのか?」
無事でいてくれ、無事でいてくれ、無事でいてくれ……
祈るような問いに、妹様も命を落としました、と無慈悲な声が響いた。
「果穂が死んだ……」
──そうです、説明致しますので、落ち着いて頂ければと──
落ち着ける訳がない。
果穂が死んだ果穂が死んだ果穂が死んだ果穂が死んだ果穂が死んだ果穂が死んだ果穂が死んだ
果穂が死んだ
「嘘だ!嘘だ、果穂は死んでない!僕も生きてる!どこだ、果穂をどこに隠した!」
叫ぶ僕に、仕方ないですねえ、と呆れたような声と共に、雑音のようなものが聞こえ、それと同時に果穂が現れた。
「果穂!」
どういう原理がなんてどうでもいい。
つい先程と同じように横たわったままの果穂はぴくりとも動かない。
「果穂……?」
つい先程と違うのは、頭から溢れる黒い血と、曲がった腕。
「嘘だ……嘘だ、果穂、さっきは血なんて、そんな、果穂……病院、病院行こう、果穂、痛いよな、もうちょっと我慢してな、お兄ちゃんすぐ救急車、呼ぶ、から……」
死んでる。
目に生気がない。
死んでる。
死んでない。
だって僕は生きてるから。
だから果穂も死んでない。
死んでないんだ
──先程、妹様は頭を打ち、命を落としております。貴方は妹様を助けようと駆け寄ったところ、車に轢かれ、命を落としました──
「何言ってんだよ!僕は轢かれてない!そんなことより早く救急車呼んでくれ!早く!まだ間に合うかもしれない!」
──いいえ、貴方も妹様も、もう間に合わないのです──
わからないわからないわからない、そんなのなにもわからない、早く救急車を呼んでくれ、死んでしまう!
──貴方は本来命を落とす筈ではなかったのです──
果穂もだ、果穂も死ぬ理由等ない。
──美しい兄妹愛、そこに血の繋がりはなくとも、美しい行為でした──
何言ってんだ、こいつ……
──でも失った命は元には戻らない、そこでですね、貴方には違う世界でやり直してほしいのです──
「果穂は……果穂は?」
──残念ながら、妹様は──
「果穂も一緒だ!美しい兄妹愛とか阿呆みたいなこと言うなら、妹も一緒だ!果穂も!果穂も呼べ!!」
──いいえ、妹様には別の使命があるのです、一緒にはいけません──
「知るかよ……うるせえ!果穂と一緒じゃなければダメだ、果穂を返せ!!」
──そんなに一緒がいいのですか?辛いことも多かったでしょう?──
「そんなの知らん!果穂がいない世界なんて僕の生きてる意味はない、そんな世界に送るんじゃねえ!」
──仕方ないですねえ、貴方と妹様は別の方が幸せになれると思うのですが……──
ごちゃごちゃ言うな、黙って果穂を返せ、返せ、返せ!
──わかりました、では貴方達には、必要なものを──
知りたいことは沢山あった。
だというのに、僕の意識はそこで途絶えてしまった。
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