これを優しさと呼ばないのなら過ちでもいい
鈴代
わたしたちの愛
わたしたちは小さいころから一緒だった。共に成長して、あなたは大人になり、わたしはすっかり老い込んでしまった。
「はな、ごめんね」
あなたの濡れたまつ毛が照明の光を受けて輝いている。ごめんね、つらいよね、と体を起こすこともできなくなったわたしの背をさする手は優しい。あなたが加減を覚えたのはいつだったか。幼いころは叩くように触るから痛くて嫌だったのに、今はその痛みすら懐かしく愛おしい。
何年前からか、わたしは頻繁に体調を崩すようになり、何度も死を覚悟した。あなたはその度に泣いてわたしの名前を呼び続けた。はな、死なないで、と繰り返すあなたを置いては逝けないと、死を延期してきた。しかし老いには抗えない。しだいに筋力が衰えてトイレを失敗するようになり、しまいには寝たきりになって、ご飯も自力では満足に食べられない。もうあなたの頬を伝う涙を舐めてやることもできない。
あなたとの散歩も好きだった遊びもできないことがつらくないと言えば嘘になる。それでも、ああ、なんて充実した生だろう! あなたはきっと、延命すればわたしがいつか不自由な体で日々を送ることになると分かっていた。承知のうえで、わたしに生きてと望んだことはどれほど苦しかったろう。かわいいあなた、もう泣かないで。わたしは何があってもあなたの味方。わたしだけはあなたのすべてを肯定する。
愛ゆえに生を願うこと、これを優しさと呼ばないのなら過ちでもいい。
これを優しさと呼ばないのなら過ちでもいい 鈴代 @suzushiro79
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