第101話 怖い考え

 まさか、と思った。

 いやいやそんなはずはない。頭の片隅を過ぎった考えを打ち消す。

 そしてその表情を見ていた佐島が、まじまじと史織の顔を見つめる。そして、困ったように眉根を寄せて小さく息をついた。

「・・・その、まさか、って顔。行き着きましたね?怖い考えに。」

 さすがは探偵、お見通しらしい。

「だって、もしもそうだとしたら、この人はうちのマンションに居るってことに」

「なりますね。」

 犯罪者とも思える相手が同じマンションに住んでいたなんて恐ろしい。

 青ざめた顔で史織はふと気がつく。

 そう言えば、中田結月と出会ったのは息子の学童へ行く途中にあるスーパーだった。彼女はこの近くに住んでいると言わなかったか。

 最初は迷子になった峻也の手を引いてサービスカウンターまで連れてきてくれた。

 その後に同じスーパーで再会したのだ。

 あのとき、息子の注意を引いたのは。

 再会したとき、卵のパックを落としたのは、まさか。

「佐島、さん・・・。」

「はい。なんでしょうか?」

 テーブルの上のポテトを口の中に放り込んでいた探偵が、顔を上げる。

 史織は震える声で続けた。

「思い当たる方が一人いるんですけど。ただ、どうにもわからないこともあるんです。探偵さんならば、理解出来るのでしょうか?」

 軽く指先を紙ナプキンで拭った佐島は、ドリンクでポテトを流し込む。

「まずは須永さんの予想をうかがいましょう?」




 盆休みということもあって、珍しく夫が家に居る。

 夫はエアコンの聞いた室内で息子と楽しそうにボードゲームをやっていた。息子はテレビゲームのほうがやりたいのだけれど、父親は、テレビゲームが苦手だ。長時間ゲーム画面を見ると酔ってしまうと言ってやらない。息子の峻也も父親が一緒に遊んでくれるのならば、結局どんなゲームだって楽しいのだろう。

 そんな二人を横目に史織は昼食の準備に取り掛かっていた。

 エアコンが効いているとは言え暑さは厳しい。外の暑さよりはましだと言っても、料理をし始めればキッチンは暑くなる。洗い物をしていた彼女の手が止まり、手拭きタオルで滴る水滴を拭った。ポケットに淹れていたスマホが着信したのだ。

 手にとって相手を確認すると、史織の目が見開く。

 夫の同僚の中田結月からの着信だったのだ。


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