第100話 車の居場所

 その話をしていた時に何かが引っかかった気がした。

 小学生であろうとも金に汚くなる。嫌な言葉だ。小学生ではおそらく自分で自由になるお金が余りないだろう。しかし、それは必要がないから持たせないということと、使い方を理解していていないからだ。

 ゲームの課金にのめり込む子供。ニュースなどで見たことがある。怖いなぁと思いつつも他人事だった。息子である峻也にはそんな気配なかったからだ。

「自分で稼いだこともないガキが、生意気言ってんじゃないってキレてやるけどね。」

 だるそうに校庭を見ているもう一人の保護者。きっと苦労しているのだろう。

 まあ、子育てが楽なわけはない。それは史織だってよくわかっている。

「お迎えが来ましたよ。」

 学童の職員がそう言って校庭に出てくるまで、子どもたちは元気にボールと戯れていた。



 次に佐島と合ったのは、真っ昼間のファーストフード店だった。

 味覚がおかしい史織にとっては、小洒落たレストランやカフェも興味がないし、そもそも探偵と会うのに場所を選ぶ必要もなかった。

 けれども最近になって、飲み物は普通に飲めるようになってきたのだ。コーヒーや紅茶は緑茶などは、その香りの強さもあってか、味がわかる気がする。だから、このファーストフードでもコーヒーを注文した。

 そのことを知ってか知らずか、佐島は普通のハンバーガーのセットを買っていた。

「この車、見覚えありませんか。」

 彼が差し出したタブレットに撮影されたピンク色の軽自動車に視線を向ける。

「・・・あるような、気がします。」

 アイスコーヒーが入った紙カップのストローから口を離して、史織がそう言うと、探偵は再び画面を変えた。

「もしかして、自宅近くじゃないですか?」

 次の写真に写っていたのは、須永家が居住するマンションの地下駐車場だった。夫の車も同じ駐車場にマイカーを置いている。駐車場の隅のほうで小さく見えるピンク色は、普段は余り気がつかないけれど、こうやって見れば案外目立つものだ。

 それまでどこか思考が彷徨っていたような人妻の目が、突然に見開かれる。

 ピンク色の軽自動車を見たのは、息子の小学校の駐車場だ。そして、その車が自宅のマンションに有った。

 ということは、あの自動車の持ち主は史織と同じマンションに住んでいるのか。


 

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