第96話 慣れないこと
「実は、・・・その、中田くんのおうちはちょっと複雑なところもあって。でも、今まではこんなこと無かったんです。だから、職員も・・・担任の先生も首を傾げるばかりでして。」
子供たちのドッチボールを横目に、職員に相談をするとぽろりとそんなこと言うではないか。
「担任の先生も知っているんですか?」
「ちょっと心配だったので、六年生の担任に相談したようです。」
年配の職員は困ったように息をつく。
家庭が複雑というと、どういうことなのだろう。ただ、その事情説明までは職員も学校の教師も教えてはくれないだろう。こういう時は、ママ友のネットワークが頼りなのだが、高学年に兄弟がいるママ友は史織にはいないのだ。
あまり得意ではないが、これは史織自身ががんばるしかあるまい。
ドッチボールを見守っている他の保護者の姿が校庭にチラホラ現れた。
「こんにちは〜!すみませんね、うちの子がドッチボール誘っちゃったから遅くなってしまって。もしかして、ご迷惑でした?」
作業着姿の保護者が史織の声掛けに反応する。
「いやいや、大丈夫ですよ。うちのもわんぱくで、外遊び大好きなんで。」
「そうなんですね。うちの子、あそこで今、ボールキャッチした子なんです。いつもお世話になってます。」
「うちのは、あそこの外野手ですよ。ボール遊び好きなんだけどすぐにぶつけられちゃってね〜。でも誘ってもらって嬉しそうだから、ちょっと遊ばしてあげたくてね。」
違う学年の保護者に話しかけるなんて、本当に勇気がいる。
心の中で冷や汗をかきながら、史織は必死に言葉を紡いだ。
「元気で可愛いですね〜。ご兄弟いらっしゃるんですか?」
「ええ、お兄ちゃんが一人。ホラ、あそこにいるんですよ。鉄棒のところにいる、あれが兄です。兄弟そろって学童でねぇ。助かってますわ。」
今日初めて話しかけた保護者が示した視線の先には、校庭の端に有る鉄棒に寄りかかってしゃがんでいる男子がいた。遠いせいか、あまり大きい子には見えないが。
史織は思い切って尋ねる。
「何年生ですか?」
「六年生です。見えないでしょう、小さいんですよ。」
「座ってるから小さく思えるだけですよ。じゃあ、もしかして、学童にもたくさんお友達いるんですね?」
「ああ〜、でも、六年生は少ないですよ。うちのと、中田さんとこと、浜川さんちくらいしか知らないなぁ。」
きさくな保護者が、警戒心もなくペラペラと喋ってくれた。きっと優しい人なのだろう。
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