第93話 詳細な指示
すっと両手で顔を押さえてしまった。
嬉しくて涙が出そうになったのだ。涙が出る前兆で、鼻の奥がきゅーんと痛くなる。指先で顔のところどころ押さえて、どうにか堪える。
夫は、洋輝は、やはり不倫なんてしていなかった。
”探偵さん”が言うのだから、おそらくそうなのだろう。
「拝見した感じでは会社で貸し与えられているスマホ、や携帯なども無いようです。よく公衆電話お使いでしたからね。」
「・・・あ、営業先は病院が多いから。病院にはたいがい公衆電話あるんで。」
「そう言えばそうだ。なるほど。でも、ご主人にもう一台買うようにと頼まれました?」
「はい。さっそくカタログ持って帰ってきたので、すぐにでも買うかと。」
「それはよかった。・・・これでご主人が新しい携帯を持って、それでも再びあやしいメールが来たら犯人はまた別人ということになります。くれぐれも新しい携帯の扱いは慎重に。セキュリティをしっかりと設定なさってください。」
「はい。」
「その後、何か変わったことやわかったことなどあったら、お話頂けますでしょうか?小さなことでもいいので、どうぞおっしゃってください。」
佐島はタブレットをテーブルに置いて、注意深く依頼人の顔を見た。
そして、史織がポツリポツリと語る言葉を、そのタブレットに入力して行く。
上司からのメッセージが、また届いていた。例の投書の件らしい。
出勤した朝に、上司に呼び止められたけれど、史織から語れることなど何もない。心当たりなどがないのだから。上司の方も、今のところは噂になったり、ネットに悪口を書き込まれるなどの被害が出ていないので、様子見だという態度は変わらない。
「なんなんだろうね?何が目当てなんだかさっぱりだよね?」
上司と話をしている所を見かけた鶴田が、声をかけてきた。
「うん、まあ、どうしようもないから、今は放置しかないけどね。」
発注の伝票を整理しながら、史織も生返事だ。
ちらちらと鶴田がこちらを見ているのは、史織の反応を確かめているのも事実だろうけれど、本心はきっと。史織が、鶴田の紹介した”探偵さん”に依頼したかどうかを知りたがっているのだろう。
それについても、佐島から指示を受けている。依頼したが断られたと、答えるように。
恐らくは、佐島から見れば、紹介した鶴田でさえも警戒すべきだと言っているのだろう。
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