第92話 シロ。
佐島はもらったペットボトルのお茶を開けて一口飲むと、モニターに何かを映し出した。依頼人である史織を促し、見るようにとモニターを向ける。
「最初にお預かりしたカメラの映像です。見てください。ここは須永さんのお宅の前庭でいいですよね。いいですか、この映像の左端をところをよく見てください。一瞬ですが、影が動いたのがわかりますか?」
史織は佐島の座っている側へ回り込んで映像を覗き見る。
あまり鮮明とは言い難いが、それでも彼の言っていることは理解できた。確かに、何かの影が揺れたのが見える。以前、史織もこの映像を見たことが有るが、こんな隅の方の影など気が付かなかった。
「確かに・・・。」
「おそらくですね、これはカメラから映らないギリギリの所を通っているのだと思います。時刻は昼間で午前11時48分。この日のこの時間、須永さんは何をなさっていましたか?」
史織はバッグからスケジュール帳を取り出した。日付を見て、記憶を取り戻す。
「友人と、お昼を食べに行った日です。」
佐島は軽く頷いた。
「奥さんはお仕事をなさっておられますね。では、昼間はご自宅はほぼ留守です。お子さんが夏休みの間も?」
「実は、うちの息子は学童へ行ったり行かなかったりなので、必ずしも留守とは限りませんが、留守のことも多々あります。」
「あれから新しいカメラを増設してくださったとのことでしたね。その映像は消去機能を解除しておられます?」
「はい。莫大な量になってしまいますけど。これを全部見るんですか?」
「お留守でない日程を教えてください。その日を抜いて見てみます。」
再びバッグに手を突っ込んだ史織は、映像が記録されたメディアを取り出して探偵に手渡した。3つもあるそれを、佐島は確認するようにテーブルの上に並べる。
「シールに日付を書いておきました。小さいですけど。」
「ありがとうございます。では、お預かりしますね。それから。」
「はい?」
佐島が少しだけ笑った気がした。
「ご主人の動向を2週間ばかり探らせていただきました。まあ、主に終業後だけなんですけどね。何しろ、ご主人のお仕事は営業さんなので、ずっとついて回るわけもいかなくて。で、これまでで得られる情報から見て、ご主人が浮気や不倫しておられる様子はないですね。」
「本当ですか?」
顔を上げた史織の表情は、驚きと安堵でいっぱいだった。
「ここ二週間の、終業後の様子だけで、ですけどね。万が一、就業中にでもやらかしてたらわかんないですけど。ご主人が接待でお出かけになった時も拝見したのですが、そもそもお酒を召し上がらないようで。」
「あ、はい。主人は飲めないんです。」
「ですよね。ですから、仕事が済んでご自宅に変えられるまでの間に、誰かと個人的に会ったり、特定の場所へ入ったりするようなところは見られませんでした。そして、スマホもお持ちでないのだから、浮気相手、がいるとしても連絡もとれない。」
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