第87話 見方を変える。

 結月が化粧室から戻った頃、タイミングよく食後のデザートとコーヒーが届いた。ウェイターに軽く礼を言って受け取る。クランベリーチーズケーキと、チョコレートムース。それにアイスコーヒーが二つ。夏とは言え、冷房の効いた店内でアイスは流石に食べる気にならない。

「・・・なんだか、ちょっと印象が変わりましたね史織さん。何かありましたか?」

 上目遣いでこちらを見上げてくる若い娘の視線は、どこか蠱惑的だった。男ならドキッとするだろうな、などと思う。

「そうですね。色々あって、息子のことも夫のこともうまくいかなくて。」

「お話聞きますよ。少しでも話せば気が晴れますし。」

 以前は、この言葉を親切だと、思いやりだと感じていた。

 結月は自分の愚痴や思いを受け止めてくれている。優しい女性だと思っていた。

 だが、考え方を変えたら。

 史織の話を引き出すことで、こちらの情報を得ようとしている。

 そう考えることも出来るのだ。

 言葉を濁してそれ以上言えないでいる史織のことを、遠慮や羞恥で黙ったとでも思ったのか、更に畳み掛けるように追求してくる。

「もしかして、お子さんやご主人のこと以外にも、何かありました・・・?例えば、お仕事のこととか・・・?お友達と何かあったとか・・・?」 

 心配顔で必死に訴えるように聞いてくる。

 なぜだろうか。

 考え方一つ、変えただけで。

 史織には、結月の心配そうな顔が偽善的に思えて仕方がなかった。



 気詰まりなランチを済ませて自宅へ戻る。

 自宅に戻ってすぐに、監視カメラの位置を確認した。

 佐島に言われて、新たにもう一台設置したのだ。それは、以前に設置したものとは別に、以前のカメラからも死角になるところが見える場所へ取り付けてもらうことにして、場所の指示は佐島にしてもらった。

 彼に言われてみれば確かに、以前の監視カメラの位置はわかりやすかっただろう。というか、監視カメラがある、というアピールの意味もあった。監視しているから、侵入すると撮影されるぞ、という脅しや警告の意味があったからだ。家の玄関に警備会社のステッカーを貼ったり、車の側面にドライブレコーダーを搭載しているというステッカーを貼るのと同じだ。

 今回のカメラは違う。外からは殆どわからない場所に配置した。夫の洋輝さえもしらない場所である。



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