第83話 卒倒もの
結果を尋ねると、佐島はそれを見せてくれた。黒くて小さなそれは、すでに動力切れで作動していないそうだ。
「誰が犯人なのか、とか、わかるんですか?」
「わかんないだろうね。」
「え、わかんないんですか!?」
「受信機どこにあるかわかればわかるだろうけど、それは無理でしょう。ただ、手がかりはありますよ。」
「てがかり?」
「須永さんが家でしか話さないことについて知っている人物ですよ。」
「あ、そうか。・・・でも、そんなことどうやって調べれば。」
史織は思わず考え込んでしまう。
大体どこまで家で喋ってどこまで外で喋っていないかなんて、思い出せなかった。
「・・・とりあえず、盗聴器と思われるものはこれだけです。須永さん、監視カメラ、付けてませんか?」
「はい、庭に。お伝えした通り、庭のトマトにいたずらされたことがあったんで設置しました。」
「なるほど。用心深くていらっしゃいますね。いいことです。そのカメラの映像は見られますか?遡ってどのくらいまで?」
「・・・確か、10日くらいだったと思います。それ以上は保存出来ないので自動的に消去していく仕組みになってます。」
「見せて頂けますか。」
「はい。」
大人しくしている峻也が、母親の上着の裾を引いた。
「なぁに?峻也。」
「まだ、喋っちゃ駄目なの?」
そういえばいつになく小学生男子がとても大人しい。
静かにしているように言い聞かせたことを、ちゃんと守っていたのだ。
「もう大丈夫よ。」
「ゲームしてもいい?」
隣に立っている佐島にも伺うように尋ねる。子供なりに、何か深刻なことを話しているのだろうと想像がつくようだ。佐島は頷く。それを見て、母親も頷いた。
「勿論よ。おうちに入ってやってていいわ。」
わぁいと言って靴を脱ぎ捨てた少年はリビングへ飛び込んでいった。
「盗聴器って、せいぜい長くて一週間程度しかもたないんですよ。だからもしかしたら、時々家の中に侵入して付け替えていたという可能性もあります。今日見つけたこれも、切れてそんなに時間が経ってないようです。」
「じゃあ、誰かが知らないうちに家の中へ勝手に侵入していたってことですか!?」
こんなぞっとするような話があろうか。
青ざめる依頼人の顔を見つめながら、探偵はこともなげに言う。
「ないことでもないでしょ。よく民家にネズミや野良猫とか平気で侵入されてるじゃないですか。あれの人間版と思えば。ああ、そうそう。勝手に屋根裏に他人が住み着いている話なんて、時々テレビでやってるじゃないですか。案外気づかないもんなんですよ。」
あれはテレビの中の話だから納得がいくのだ。
自分の立場に置き換えたら卒倒ものである。
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