第82話 警戒
メモ帳には、史織の、なぐり書きのような乱暴な字で、
”盗聴器が仕掛けられている可能性が有る。と探偵さんい言われた。”
と、書かれている。
さらに、次のメモ紙をめくる。
”だから、洋輝のスマホの行方や、洋輝の職場での事を話さないで。”
ぱくぱくと口を動かす夫に、さらにもう一枚めくって見せる。
”わかったら頷いて。”
蒼白になった顔のまま、洋輝が頷く。
その様子を見て、史織もまた頷いた。
「わたしの職場でのことなんだけどね。ちょっと聞いてほしいんだけど、いい?」
「相談したいことって、それ?なんかあったの?」
史織の話に合わせて洋輝も口を合わせる。
「上司にあたるリーダーの人にね、仕事が遅いって怒られてしまって。」
「リーダーって男の人なんだっけ?」
ゆっくりと会話しながら、史織がメモ帳にペンを走らせた。
”明日の昼間に探偵さんがここに来て、探知機で調べてくれるって言ってるから。”
メモ帳を差し出され、洋輝も彼女の字の後に続けて書く。
”わかった。なんか、すっげー話になってきたな。”
夫のメモに、妻は呆れたような視線を送った。メモの内容がまるで他人事なのだ。その視線に気付いたのか、再び洋輝がペンを取る。
”そんな目で見るなよ。茶化してでもいなくちゃ、やってられねぇんだ。”
佐島は翌朝10時すぎにやってきた。そして、在宅していた史織とその息子の峻也に向かって軽く頭を下げる。
結局峻也は学童を休んだ。
「おはようございます。」
「おはようございます。どうぞ、お上がりください。」
前回打ち合わせた通り、絶対に名前は口にしない。
息子は知らない男性の姿を見て警戒した様子だったが、史織が口元に人差し指を持っていくと、黙っていた。
「では、失礼します。」
佐島はジャケットのポケットからスマホを取り出し、言葉を打ち込んで史織に見せる。
”これから探知機で室内を捜索させてもらいます。装置の性質上、絶対に音を立てないで頂きたい。出来ますか?”
「・・・峻也、静かに出来る?声も出さないでいい子に出来るかしら?」
「出来る。」
母子が確認している様子を、佐島は苦笑混じりに眺めていた。
本音を言えば、部屋の外で待機してもらいたいのだ。だが、さすがにそれは依頼人も看過できまい。探偵とは言っても赤の他人を自宅に引き入れるのだ。その程度のことは佐島も理解している。
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