第80話 興味本位

「奥さんが異変を感じ始めた頃からの出来事を、全部順を追ってお話して頂けますか?小さなことでもいいです。ちょっとでも、アレ?って思ったこと。・・・あの、今日の相談のお代は結構です。いりません。興味が出てきてしまったので。」

 今度は史織の方が変な顔をする。

 興味本位や遊びではないのだ。こっちは必死である。

 その表情に気付いたのか、慌てて佐島は両手を振った。

「ふざけているつもりも遊びのつもりもないです。ただ純粋に興味を惹かれています。今まで取り扱ったことがないパターンなので。だから、自分も多少手探りになってしまうかもしれませんが、そのかわり今までに培った探偵としてのノウハウを駆使して当たらせていただきます。調査料は、実費と時給換算で。」

「・・・あの、わたしは真剣に困っているんで」

「こっちも真剣です。初めての案件かもしれないから必死ですよ。気を悪くされたのなら謝りますし、もしも止めたいのならばこれ以上は何も申しません。」

 佐島が神経質そうに眼鏡のフレームをまた指先で上げる。

 鶴田の紹介なのだから、おかしな人ではないのだろうと信じて連絡したのだが、この小柄な男をどこまで信用していいのだろうか。

 けれども、今の史織には打つ手が他にない。

 有るのかもしれないが、思いつかない。

 色々行き詰まっている。とにかく、なにか新しい情報や対策が欲しいのだ。

「・・・一番はじめにおかしいと思ったのは、妙なメールを受け取った時です。」

 長い沈黙の後にポツリと話し始める。

 探偵は小型のタブレット端末を取り出し、操作を始めた。



 久しぶりの学童へ行った峻也が赤い目をして戻ってきたので、史織は学童の先生に視線を向けた。

 先生の方も困ったように両手で顔を押さえている。

「なにかあったんですか?」

「・・・その、上級生と揉めまして。」

「また!?しばらく休ませたのは少し距離を置いたほうがいいと思ったからなんですよ。一週間も休めば、喧嘩したことも忘れるかもしれないと。」

「うーん・・・峻也君は多分悪いことはしてないと思うんです。上級生の方の問題かもしれないので、できるだけ近づけないようにしていたんですけど。」

 今朝はしばらくぶりに学童に行くのを楽しみにしていた息子。学童へ送り届けたときも、上機嫌でお弁当を持って走っていったのに。

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