第78話 潔白の証明に
仕事の昼休みには、鶴田に教えてもらった”探偵さん”に連絡をしてみようと思ったので、食堂には行かず、一旦会社の外へ出る。
その店で買ったものを飲食できるコンビニが近所にあるのだ。小さなサンドイッチとアイスコーヒーを買って簡易なテーブルとイスに腰を下ろした。
周囲には他の客は座っていない。けれども、レジには人が並んでいて、お誂え向きだ。それなりに雑音はあるけれど、近くには誰もいないタイミング。
5回ほどのコール音の後に、女性の声が応じた。
「はい、もしもし。
それがとても普通で、とても探偵という職業とは結びつかないような主婦らしい声だったので、一瞬だけ史織は息を呑む。番号を間違えたのかと。
「あの、わたしは須永と申しまして。こちらで調査などを引き受けて下さると聞いたものですから・・・。」
緊張の余り、声が上ずる。
ほんの数秒の沈黙があった。が、やがてすぐに相手からの応答が貰えた。
「はいはい。そういったご要件ですね。このままお待ちくださいねー。」
保留のオルゴール音が流れ出す。
初めてかける電話というのは相手が誰でも緊張するものだが、今回は格別だ。
とりあえず、間違い電話をしてしまったわけではなさそうだった。
一分ほども待っただろうか。
「お電話、変わりました。」
野太い男の声に変わった瞬間には、再び緊張の汗が吹き出した。
昨夜の夫婦の話し合いで、史織は夫に頼んだことが有る。
「洋輝には洋輝の立場があるから、言えないことは言わなくていい。そのかわり、わたしはわたしで調べたい。このままではわたしは多分保たなくなると思うから。」
「え、調べたいって・・・。まさか、俺が浮気してるかどうかを調査するってこと?」
聞き返す夫の表情を注意深く見守る。狼狽えているのは、史織が言い出したことに驚いているからだろう。彼の表情には後ろめたいものはないようだ。
ゆっくりと頷き、それから畳み掛けるように言い添えた。
「あなたが嘘をついていなければ、調べられても平気よね?わたし職場の知り合いの人に、興信所みたいなところを紹介してくれるって言われたの。」
洋輝はなんとも言い難い困り顔だ。
その一方で、史織の意見にも一理あるのではないかと考えているようにも見える。頭ごなしに否定しないのだから。
「うーん・・・確かに。第三者に調べてもらって、逆に俺の身の潔白を証明してもらうってことにもなるしな。ただ、費用が心配なんだけど。そういうのってスッゲ高いんじゃないの。」
どうやら渋い顔の理由はお金がかかることの方が理由だったらしい。
調べられることには異論は無いようだ。
史織の心の中は、安堵でいっぱいになっていた。調査することそのものに反対しない洋輝の態度に安心できたのだ。本人の言うとおり、潔白が証明されればさらにいいだろう。
「費用はもちろんかかると思うけど、月賦でも言いっていう所なんだって。だから、思い切って頼もうと思ってる。いいかな?」
夫は、しばらくの間唸って考え込んでいたけれど。
最終的には許可を出してくれたのだった。
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