第68話 影響
昼休みにはすぐに返事が来ていた。
”史織さんのお話、うかがいますよ。いつでも言って下さい!”
有り難い、と思った。ほっとした。
結月は、まったくの他人だからこそなんのこだわりもなく話せる相手だ。自分の職場とも関係ないし、学生時代の友人でもない。夫の同僚では有るが、史織とは直接関わりはなかったのだ。
史織の話を聞いた結月が、夫を職場で偏見の目で見ているかも知れないが、そんなことは知ったことではない。
ロッカー室でスマホを見ていると、同僚の鶴田が入ってくる。
「おはようございます。須永さん、早いですねー。」
「今日、息子が学童を休んでいるので、少し早めに来ました。早めに上がってもいいですか?」
「あら、どうしたの。風邪でもひいた?」
「・・・ちょっと、学童の子供同士のトラブル。」
「あー・・・あるよねー・・・。」
鶴田も子供を学童に預けていた時期が有るから、すぐに共感を得られた。彼女が自分のロッカーを開いて着替えを始める。
「喧嘩?まさかのイジメ?ちゃんと先生に抗議したほうがいいよ〜。」
「なんかさ、特定の上級生に絡まれてるみたい。そういうのってよくあるんですかね。」
「上級生かー・・・。まあ、あるよねぇ・・・。まあ、大体小学生のうちってさ、揉め事を起こす子って何かしら家庭に問題が有ったりするもんだし。その子は優等生なのかな?もちろん、須永さんのお子さんはおりこうさんなんだろうけど。」
「まだそこまでは、聞いてないかな・・・。もっと詳しく聞いて、相手の親にも抗議したほうがいいんでしょうか?」
「んー・・・詳しく事情を聞くのは大事だと思うよ。あと、旦那さんの件は落ち着いたの?」
ぎくりと顔色を変える史織に気付いて、どうやらまだなのだろうと推測する。
鶴田は小さくため息をついて、ロッカーに付属している鏡を眺めながら化粧を直す。
「こう言ったら嫌だろうけど、そういう意味では須永さんの息子さんだって、家庭に問題が有るってことになっちゃうからねぇ。子供って、なんにも知らなくても、敏感に空気を感じ取ったりするから。侮れないんですよ。」
はっきりと言われて史織が目を剥く。
一番、言われたくなかった事だった。今の史織にとってもっとも辛い指摘だ。
史織は母親として精一杯やっているし、夫婦のゴタゴタを息子に悟られないように、出来るだけ表面に出さないように生活しているつもりなのだ。
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