第62話 心配させたくない

 自宅に入って荷物を置くと、史織はリビングに腰を下ろした。学童用のリュックを背負う息子に、それを下ろして話をしようと座らせた。

 峻也は促されるままに荷物をその場に置いて、正座する。

「叱るわけじゃないから、正座しなくていいよ。お母さんは、峻也にお話を聞きたいだけなの。」

「お話?」

「学童の先生にも聞いたわ。上級生と揉めてるんですって?」

 急に俯く息子を、悲しそうに見つめる。息子はいいたくないのだろう。

「お母さんにも、言えないこと?」

「そうじゃないけど。」

「じゃ、どうして言いたくないのかな?それも教えられない?」

「・・・その、お母さんに心配かけたくなくて。」

 苦しそうに放った息子の言葉を聞き、史織は反射的に彼を抱きしめてしまった。



 六年生の一人が、隙を見て近寄ってくるのだそうだ。

 そして、何かしら、峻也の邪魔をする。例えば、宿題をしていればノートを急に取り上げたり、友達とボールで遊んでいれば、横から入ってきてそのボールを奪って持っていってしまったり。なんでそんなことをするのか、と聞くとニヤニヤして答えない。仕方がないので、出来るだけ関わらないようにしているのだけれど、学童に行っていると、居場所は限られているのですぐに見つけられてしまう。

「その子の名前はわかってるの?」

「うん、知ってる。」

「わかったわ。じゃあ、お母さん学童の先生にちょっと話してみるわね。」

「・・・でも」

「でも?」

「多分、意味ないと思う。先生に言っても。」

 そんなことはないはずだ。そのためにいるのが学童の先生だろう。揉めたり問題が起こらないように監督するのが、彼らの務めなのだから。

「どうして?」

「そいつ先生には見つからないようにやるから。告げ口しても信じないと思うよ。」

 中々陰湿な上級生だ。

 だが、何故峻也がそんな目に遭わなくてはいけないのか、わけがわからない。

「その六年生って、元々仲が悪いの?」

「そいつが下級生をいじってた時、やめろって言ったかな。一度か

「二度くらい。でも、そのときは別に何もなかったんだけどね。元々は仲良くもないけど悪くもない、くらいの感じだったと思うよ。」

「それなのに、なんで」

「だから、理由はわからないんだ。本人に聞いても答えないし。」

 六年生と聞いて思い出した。

 確か結月の甥が六年生と言っていた。運動会の日に甥っ子を見に来たのだと言っていただろう。息子をいじめる六年生のことを、何か知らないだろうか。


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