第61話 もめごと
夏休みに入ると、息子の峻也は学童に行くようになった。夏休みに入る前は、学童に行くことが抵抗なさそうに言っていたのに、
「・・・学童休んじゃ駄目かな。」
と言うようになったのだ。
「どうしたの?なんか嫌なことあった?」
「・・・なんでも、ない。」
事情を聞こうとすると、黙ってしまう。
三日間連続で行きたくないと言ったので、思い切って、学童の先生に尋ねてみることにした。
送迎に行ったついでに先生を捕まえてみると、
「ええ、ちょっとこの所上級生と揉めていて。反抗期ですかねぇ。・・・以前はこんなことあんまりなかったんですよ。」
先生までも心配そうに言うではないか。
「峻也くんに聞いても、ちゃんと教えてくれなくて・・・。お母さんになら、話してくれているのかと思ったんですが、おうちでも黙ってるんですね。心配です。その、もし、あんまり気になるようだったら、少し間、おうちでお休みさせるというのも。もちろん、お仕事の都合が付けばですけど。」
一体何があったのだろう。
これはゆゆしき事態だと思った。まさか、自分と夫の間に起こったことが息子に影響しているのだろうか。
しかし先日の話し合いで、史織は納得したつもりだった。夫に対する疑惑を持たないようにしている。だから、そんなはずはない。
そう思っているのは、史織だけなのだろうか。
息子と一緒に帰途につくと、史織はマンションの郵便受けに手を入れた。また例の手紙が来たとしても、もう動揺するのは止めようと自分に言い聞かせている。何か異常があれば、全て洋輝に相談すればいい。
どんな困難にも夫婦で、家族で、協力して立ち向かっていくと決めたのだ。
郵便箱の中に入っていたのは、少し厚めの封書が一つだった。
それを目にした途端、心臓の鼓動が速まる。
見覚えの有る白い封筒。
少し膨らんでいるのが、以前と違う。今までは薄い紙片一枚だけが入っていて、うすぺらかったのに。
震える手で、それを手に取る。
またも史織宛てで、差出人名が無記名だ。消印はない。
「どうかしたの?」
不思議そうに手元を覗き込む息子に、軽く手を振ってみせる。
「なんでもないの。ただ、お手紙が入ってただけよ。お腹すいたね、早く夕飯にしましょう。」
「そうだね。お腹すいた。」
ハンドバッグの底に封筒を沈めて、作り笑いをした。息子の手を引いて、部屋の鍵を開ける。
心の中は穏やかでいられないけれど、峻也に動揺を悟られてはならない。
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