第60話 ランチタイム

「スマホなくしたのに、会社へ連絡しなかったんですか?危ないから、すぐに契約会社に連絡しろって上司に言われてましたよ?」

「ええ。でも、夫は絶対に会社内に有るはずだって言いはるから、契約会社には”見つかったから紛失届をなかったコトにして”って頼みに行ったんです。だから、電源さえ入ってれば、まだ繋がるはずです。」

「そうなんですね。・・・じゃあ、社に戻ったら、また探してみます。見つかるといいですね。」

 結月はそう言って、アイスコーヒーを一口飲んだ。

「お待たせいたしました。本日のランチになります。」

 ウェイターが二人の食事を運んできた。ワンプレートランチなので、テーブルの上に出すのも時間がかからない。

 会社を抜けてきてくれている彼女のためにも、なるべく早く食事できるところがいいと思って、この店のランチを選んだのだ。夫の会社からも徒歩10分の、近場である。

「頂きまーす。」

「頂きます。美味しそう、お腹ペコペコだ。」

 史織は、まずはクルトンや粉チーズがトッピングされたサラダからつつく。

「史織さん、ダイエットまだ、やってるんですか?」

「ううん。どうして?・・・そもそもダイエットはしてないけど。」

「いや、なんか痩せてたから、ダイエットしてたのかと思って。元々スリムなんですね、羨ましいな。あと、野菜から食べるのって、太らない食べ方って聞いたので。」

「痩せたのは、まあ、・・・いろいろあって、ストレスかな。」

「ですよね。・・・心配になっちゃいますよ、ホント。」

「でも、夫とちゃんと話し合い出来てるから。段々、マシになってきたんだ。」

「ご主人のこと、お好きなんですね。信じてらっしゃるみたいだし。」

 メインの肉料理にナイフを入れた結月は、ふふふと笑う。

「それで、会社の派遣の女性のことなんだけど、どんな人か、わかる?」

「ええ。わかりますよ。食べたらお話しましょう。」

 


 結月の話によると、派遣の女性は三人ほどいるそうだ。年齢は20代後半の人と30代前半の人が二人だそうで、きっちり仕事をしてくれるタイプなのだという。

「名前とか住所とか、必要なら・・・」

「うん、でも、そういうのって守秘義務でしょ?社外秘になるじゃない。結月さんに犯罪させるわけにいかないからね。どんな人なのかだけでも聞いておこうかと思って。そのくらいなら、問題ないかなと。」

「お気遣いありがとうございます。でも、社外秘という意味では、ご主人の仕事ぶりを既にチラホラお話しちゃってますけど。」

「それは、ほら、身内だから。最悪迷惑をかけるとしても自分のところだし。」

「なるほど。」

 食後のデザートをつつきながら、二人の話は尽きない。

 だが、そろそろ、昼休みの終わる時間だ。結月のスマホのアラームが鳴る。

「すみません、そろそろ戻らないと。またメッセージ出しますね。」

「来てくれてありがとう。またね。」

 焦ったように店を出ていく結月を、史織は目を細めて見送った。


 

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