第58話 派遣の子
夫は派遣の子だと言った。
ということは、結月は違う。彼女はちゃんと名刺を持っていたのだから、社員なんだろう。一瞬だけ疑ってしまったけれど、万が一彼女が夫の不倫相手だったら史織の言うことを聞いてくれる理由がない。愚痴を聞いてくれる理由もないだろう。
「そのひとは、その子は・・・一体何が目的なの?」
「全然、皆目、わからない。でも、下手に聞いたりして蒸し返すのも怖い。だから、ずっとそのままできたんだ。何もないから、忘れてしまおうかって思い始めてた。このまま何事もなく過ぎれば、その子は派遣だから、いつかは会社からいなくなるだろうし・・・もう派遣期間長いしね。」
「派遣期間長いと、どうなるの?」
「余り同じ会社に長い期間派遣されるのは業務規程に反するはずだから、別の会社へ行くことになると思う。で、別の人が派遣されてくるか、あるいは、彼女がしていた業務を社員が請負うようになるか、どっちか、かな。」
相手の目的がよくわからない。
一体なんでこんなことをするのか、洋輝にも史織にもわからなかった。
もしも夫に気が有るのだとすればもっと積極的に夫に迫ってくるはずだ。脅迫のタネも持っているのだから、強引にでも押してくるだろう。
「・・・でも、こんなのを史織に送ってくるならやっぱり問い詰めたほうがいいかもしれない。ごめんな、史織。本当にごめん。」
弘樹の声は絞り出すようだった。
「話、ちゃんと聞いてくれてありがとう。こんな写真見たんだから、信用してくれないかと思ったけど。やっぱり史織は俺の家族だ。俺を信じてくれたんだな。」
全面的に信用したわけではないけれど。
今の夫の様子からは疑いたくなるような気配がなかった。
「ねぇ、向こうからは何も言ってこないんでしょ?だったらもう余り関わらないようにしたほうがいいんじゃないかな。」
「だけど、史織にこんなことをするなんて。」
「・・・職場には、正社員の女性と派遣の女性、両方いるのよね?」
「え?いるよ。営業事務方と総務事務方と両方に。」
やはり、結月は違う。
明日また結月にメッセージを出して聞いてみることにしよう。派遣の子はどんな子なのか、聞いてみたい。
ランチをドタキャンしてしまった詫びも入れなくては。
夫のスマホそのものが無いのでは、調べることも出来ないのだから、時間が有る。
「・・・わかった。今日はもう遅いから休もうか。この事は、また時間の有る時に話し合いましょうか。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます