第56話 意識を失う。
「あの日、深夜近くなって会社に戻ったら、会社の女の子が一人、残業してたんだ。で、物騒だから、ちょうど車なんだし駅まで送ってやってくれって部長に言われて」
「・・・家まで送ったんだ?」
「違う!・・・いや、最終的にはそうなったけど、本当に駅までのつもりだったんだ。そしたら、人身事故で電車が止まってしまって、いつ動き出すかわからないっていうから。・・・もう、乗りかかった船だし、自宅近くのコンビニまでは送ってやるってことになった。」
洋輝の口は重く、言いたくなさそうな様子と言うよりは、少しだけ怖がっているような風にも思えた。それはやはり史織の、妻の怒りを恐れているのだろうか。
「それで。向こうも俺なんかに自宅知られたくないだろうし。最寄りのコンビニで下ろすことになってさ。駐車場に止めたら、ちょっと待っててくれってその子がこんびにへ入っていったから、コーヒーの一本くらい買ってくれるのかなって思って素直に待ってたんだ。で、駐車場でずっと、そうやって待ってた・・・はずだったんだけど、何故か気付いた時には、知らない部屋で寝かされてた。」
「・・・え?」
「多分、その子の部屋だったんだろうと思うけど、どうやって俺をその部屋へ運び込んだのか、見当もつかないし、そもそも、俺、運転したくらいだから酔ってたわけでもないんだよ。・・・まあ、しいて言うなら、その日は遠出の後だったから、凄く疲れていたのは確か。だから、もしかしたら運転席でウトウトしてたかもしれないけど、絶対に車から降りた覚えはないんだ。」
そもそも洋輝は下戸だから、お酒に飲まれるということもない。接待で飲み会は多いけれど、大概は介抱役、接待する側、送り届け係である。
「そこで、・・・この、写真。これと同じ写真とか、顔ががっちり写ってるのとか撮られててさ、会社や奥さんにバレたくなかったら、言うことを聞け、とか言われてさ。まじで怖くなった。派遣会社の子だからさ、会社にバレたら本当にマジやばいし、俺一人の責任じゃなくなるだろ。会社に迷惑かけることになる。とりあえず、その場では、わかった、ってフリしたんだ。それで、スキを見計らって、逃げた。その子がちょっと別の部屋に行ってる間に、荷物とか服とか全部チェックして取りまとめて、飛び出したんだよ。アパートかなんかだったんだけど、とにかく
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