第53話 依存してない。
音を立てて、背筋が凍るような気がした。
「え・・・?」
夫の言っていることがわからず、いや、わかるけれど理解したくなくて、もう一度尋ね返した。
「見つからないんだ。今朝、ちゃんと充電器から外して会社に持っていったことは確かなんだ。職場の人に、連絡を入れたんだ、って言われたので、間違いなく朝は持ってた。なのに、いつのまにか無くなってて・・・。」
「連絡、入れてあったの?」
「うん。確かにオフィスの番号から着信があった。俺、着信あってもすぐに取らないこと多いから、いつも後になって気付くんだけど。気付けば普通、折返しするんだが、その時点でもう会社にいたし。で、その後外回りに行って、帰ってきたときまでは有ったような気がするんだけど・・・、外回ってる時って、時々会社と連絡取るから、常にすぐ触れるポケットに入れてるんだ。外を営業してる間はあったような気がするんだけど、会社から家に帰ろうと準備を始めたときから、無いって、気付いてさ。やばいって思って、鳴らしてもらったんだけど、見つからなくて。」
震えそうな声で言う夫は、本当に不安なのだろう。今までスマホに依存していたようには思えないけれど、やっぱり紛失したとなれば怖くなったようだ。
「お父さん、大丈夫?」
息子までが心配して父親の様子を伺う。
そのことに驚いたように、慌てて洋輝は無理矢理に笑顔をつくった。
「大丈夫だよ。お父さんはスマホなんか元々そんなに使う人間じゃないからね。」
「落とし物は、交番に行けば見つかるかも知れないよ。」
「そうか、そうだったよな。よし、明日さっそく行ってみるよ。教えてくれてありがとうな、峻也。じゃあ、寝ようか。一緒に布団行こう。」
「うん。寝る。お母さんお休みなさい。」
「お休みなさい、峻也。」
動揺が消えない夫に息子の寝かしつけを任せていいものかと思うが、息子がいるからこそ取り乱すわけにはいかないだろう。
二人が子供部屋へ消えていくのを手を振って見ていた史織も、心穏やかではいられない。
スマホを落としてしまった事も大変なことなのだが、このタイミングだということも彼女を打ちのめすには充分すぎる。明日には、夫のスマホをもう一度調べるつもりでいたというのに。どうして、今、なのか、と思うとそら恐ろしい。まるで、事実を掘り起こそうとしている史織を、神様が予測して邪魔をしているかのように思えてならなかった。
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