第45話 救われた気持ちになる
そういえば確か、洋輝の手にはタコがあった。出来やすい体質なのだそうで、時々薬を塗っているのを見たことが有る。最近は、余り見たことがないけれど。
史織も学生時代、受験の時シャーペンや鉛筆のタコが指に出来た覚えが有るけれど、今は全く無い。めっきり筆記用具を使う機会が減ったせいだ。夫もそうだろうと思っていた。
そして、写真に写っていた女性の手の袖に見覚えが有る。結月が見せてくれた遊園地での写真の女性の服装だ。シフォンのブラウスの袖は、遊園地の写真で夫と子供と一緒に写っていた。
背景の噴水は、遊園地のどこかにあった場所なのだろうか。
またもぐるぐると妄想が頭の中を巡る。
一体何故こんなにも自分を苦しめるのだろう。
夫が不貞していて、その相手が自身の存在を妻に匂わせる手法なのだとネットで読んだ。離婚させようと不貞相手の方から盛んに存在をアピールし、内輪揉めを狙うのだそうだ。夫婦関係を破綻させようとしているらしい。
今はただ、家庭を存続させるだけで、母親でいるだけでいっぱいいっぱいで、とても夫の不貞相手の事を考える余裕など無いのに。被害妄想で頭がおかしくなりそうになる自分をそうやって踏みとどまらせているのに。
夫の洋輝は絶対に浮気も不貞も無いと。隠し事などはないと断言しているけれど。
こうも色々やられては、それを信じることなど不可能だ。
叩かなくても出てくる埃に、噎せてしまい呼吸困難になる。
溢れてくる涙を手の甲で拭う。
「ひっ」
スマホに着信があったのだ。びくりと震える。
メッセージアプリの着信は、結月からだった。こんな時間に珍しい。今までにも何度か仕事中と思われる時間帯にメッセージを寄越すこともあったので、初めてではない。
”こんにちはー。上司が今席をはずしているので、こっそり!”
呑気なメッセージだ。
学生が授業中に先生にバレないように手紙を送り合うような感覚だろうか。
泣き笑いみたいな顔になって、史織はそのメッセージを眺める。
「あは・・・。」
結月にはなんだか助けられたような気分だ。その呑気なメッセージで、死にそうにダメージを受けている自分がなんだかとてもちっぽけに思えて。
”こんにちは。駄目じゃないですか、サボっちゃ。”
”みんな出払っていて、私一人なもんで。さっきまでいた上司も席を外したんです。”
”あらあら。そんなんで大丈夫なのかな、その会社。”
”須永さんをはじめ、営業さんががんばってるので、大丈夫”
”ならよかったけど”
さりげなく夫も頑張ってると言われている気がして、ほっとする。
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