第43話 二通目

 峻也が夏休みに入ると、学童へ通わせなくてはならない。一人で留守番が出来ないほど幼いわけではないが、心もとない。空き巣騒ぎもあって、犯人もいまだに捕まっていない。マンションとは言え、小学生一人で数時間自宅に置いておくのは心配だった。それに、本人も退屈だろう。一日中ゲーム機の前にいる事態にはさせたくなかった。

「学童?いいよ。夏休みは人数も増えるから面白いし。水遊びとか有るらしいし。」

 息子もその気でいてくれるのでありがたい。イヤイヤ行かせるのは気が引けるし、申し訳ないからだ。

 峻也は可愛いし一緒にいてあげたいと思う反面、一人になりたいと切実に思うこともある。頭と心を整理したくなるのだ。子育ては楽しいけれど、落ち着いてものを考えることは困難である。

 結月に付き添ってもらって耳鼻咽喉科を受診した。診断はストレス性の味覚障害と言われ、心療内科を勧められたのだった。

「史織さん、可哀想・・・凄く、辛い思いしてるんですね。代わってあげたい。」

 待合室で会計を待つ間、彼女はそう言って涙を目に浮かべながら史織の手をそっと握った。


 

 マンションに戻った史織は重い足取りで郵便受けへ向かう。何度か怖い思いをしているので、手を入れるのに躊躇するが、ずっと立ち止まっているわけにも行かないので、意を決して手を入れた。

 公共料金の請求やダイレクトメール便。量販店の案内ハガキなどに混じって、小さな封書があることに気がついた。

 さっと血の気が引く。

 住所も宛名も印刷で、史織宛ての封書だった。

 きちんと切手が貼付されていて郵便局の押印もある。つまりは、一度ポストに投函されて郵便として配達されたものだ。

 裏返して、差出人名を見れば、夫の名前がある。住所は会社の住所だった。

「・・・洋輝から・・・?手紙・・・?」

 夫が自分へ手紙を書くなんて想像もつかない。メールやメッセージさえ最低限の夫である。最も、仕事ならば別なのだろうが、妻へ手ずから手紙を書いて送るとは思えなかった。

 怪しいとしか思えなかった。印刷ならば、夫の会社の人間ならば彼の名を語ることは誰でも出来るのだ。ということは、前回の手紙も、会社の人なのか?

 例の封書は、いまだにハンドバッグの奥底にしまわれている。

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