第39話 子供の、話
可愛い息子の楽しそうな表情は、遊園地に行った非がどんなのか面白かったのか物語る。洋輝は本当にいい父親だ。いつも、いつまでもそうあって欲しい。
「小学校はこの日が振替休日だったんだから、もしかして学校の友達に出くわしたりしたんじゃない?」
「友達に?会わなかったな。会ったらもっと面白かったのに。」
「そっか。お父さんも知り合いとか会わなかったかな?お仕事の人とか?」
「そういうの、無かったと思う。遊園地、結構空いてたし。だから、あんまり待たずに乗り物に乗れたんだ。」
「それはラッキーだったね。お父さんと峻也は運がいいわ。」
「うん。おれたち、運がいいんだ。」
思わず嬉しくてかわいくて、息子の頭をぐいぐいと撫でてしまう。峻也がちょっと迷惑そうな顔をするのはご愛嬌だ。本当は抱きしめたいけど、小学校に上がってから人前でベタベタするのを嫌がるようになったから、それはやめておく。
「今日ね、学童で、一年生の子が苛められたんだ。先月から学童に入った子。」
今日はお喋りの興が乗っているのか、峻也が珍しく自分から出来事を話してくれる。
「あら、かわいそう。」
「だから、おれ、そういうのやめろって怒ったんだ。いじめてたの、六年生だったんだけどさ。やっぱやだったから見てられなくて。」
六年生ということは峻也よりも年上だ。たぶん、身体も大きいだろうに。
「・・・すごいわね、がんばったのね。あなたは大丈夫だったの?」
「ちょっと、打たれた。」
「・・・えっ」
史織の顔色が変わる。
「でも、すぐ先生が来てくれたから、大丈夫だった。無理やりだけど、仲直りさせられた。おれ、悪くないけど、先生がお互いに謝れって言うから謝った。」
峻也の話だけを聞くなら理不尽な話だ。
苛めた六年生に非が有るのに、助けた峻也が何故、謝罪しなくてはいけないのか。
「峻也、悪くないのに?」
神妙な顔になっている母親に向かって、峻也は、明るく笑う。
「だって、俺も打ち返したし。」
「一年生の子は?一緒に仲直りしたの?」
「どっか逃げたから、その場にいなかった。俺がそいつのせいで怒ったって言っても先生にはわかんないし、しょうがないよ。」
さばさばと、言うではないか。
先生は六年生と二年生の単なる喧嘩だと解釈したから、お互いに謝れと言ったわけだろう。何故喧嘩になったのかは知る由もない。それなのに。
「おれが怒ったんだから、別にいいんだ。」
史織はなんとなく腑に落ちない。普通は年長である六年生が、少しは大人になるべきなのに、一年生の新入りをいじめるなんて。責められるべきはそっちだろうに。
「それで峻也は、いいの?」
「平気。」
本当に平気なのか、平気な振りなのか。彼はこともなげに答えた。
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