第38話 本気ならば

 息子と夫が自分以外の若い女性と一緒に遊園地へ出かけている。誰かと一緒に行くとは聞いていない。もし、そうなるなら、予めその旨を教えてくれるはずだ。自分一人で峻也の面倒を見る自信がないというなら、そもそも自分からそんなことを言い出さない男だと思う。

 この髪の長い女性が、例の手紙とメールの差出人で、口紅とピアスの持ち主なのだろうか。

 もしも夫の洋輝が浮気をしているとして、そのデートに息子を連れて行くのはおかしい。普通ならば考えられない。相手の女性だって子供がいるデートは嫌がるのではないか。

 だが、浮気が普通ではなく、本気ならば話は別だ。

 例えば、ゆくゆくは離婚し、浮気相手の女性と再婚することを考えている。峻也を連れて再婚することを。洋輝は息子をとても可愛がっているから、手放せないのだと考えれば、妻である史織を捨てて子連れで再婚しようと思っているならば。

 写真を眺めながらそんなことを想像して、青くなったり赤くなったりする。妄想ばかりが先走り、史織は頭を抱えた。

「史織さん。」

 結月の白い手が、頭を抱えた史織の両手に伸びる。優しく握って、頭から離した。

なんとも言えないほどに険しい表情の人妻を見て、結月はなんとも痛ましそうな顔で辛そうに言う。

「苦しいですよね。気安くわかります、なんて言えないけど私は貴方の味方です。どんな愚痴でも聞きますから・・・。」

「結月さん。・・・ごめんなさい。こんな探偵まがいなことさせて、しかも、わたしの愚痴に付き合わせることになってしまって、でも、わたし」

 息子の学校のママ友になんかこんなことは死んでも言えないし、親は離れているし、誰も頼りにできないから。唯一頼れる夫がこんなことになっていて、それなのに、それを追求する勇気も持てない。

「本当にごめんなさい。」

 気付けば泣きながら、そう言うしか無かった。



 裏を取るため、というわけではないけれど。

 史織は息子の峻也に先日夫と過ごした休日について尋ねてみた。

「この間の振替休日、楽しかった?遊園地行ったんでしょう?」

 峻也は瞬時に笑顔になり、嬉しそうに答える。

「面白かった!!特撮ヒーローショーやっててさ、見に行っちゃった。お父さんのほうが夢中みたいだったよ!それからね、水の中へ飛び込むコースターが凄くてね、面白かったの。あとね、あとね。」

 学童へ迎え行ってその帰り道、隣を歩きながらそんな話をしていると、夫が妻を裏切っているということが嘘としか思えない。そのくらい、現実味がなかった。

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