第37話 仲良くなって

  いつしか、史織と結月のメッセージのやり取りは通話になっていて。

 何も知らないはずの、赤の他人である結月につい話してしまったのだ。夫の行動に疑心暗鬼になっていることを。

 何も知らないはずの他人だからこそ、言いやすかったとも言える。

「須永さん、奥様にこんなに心配掛けてたなんて、いけませんね。何か隠してるのなら暴いてやりましょう。私、協力しますよ!」

 お人好しなのか親切なのか、単に面白がっているのかもわからないが、鼻息も荒くそう言ってくれた結月が、なんだか有り難く思えて。

「そんな迷惑かけられない。」

 そう言って遠慮する史織の背中を、彼女はぐいぐいと押す。

「史織さんは何も悪くないじゃないですか!疑うようなことをしている旦那さんが悪いんですよ?それは絶対にはっきりさせるべきです。白日の下に晒さなくちゃいけません!探ってみて何もなければそれでいいし、何かあるなら、ちゃんと確かめないと!」

「・・・そう、かな。」

 スマホの向こうでしきりに腹を立てている若い女性の声を聞きつつ、少しそれを新鮮にも感じた。同僚の鶴田に話した時とはまた違う反応だ。当たり前の話だが、純粋に史織のためだけに怒ってくれていることがなんだか嬉しくて、泣けてきそうだった。鶴田の反応はもっと冷静で、客観的かつ相対的だった。とにかく史織が可哀想!!と言って怒ってくれることがありがたかった。

 鶴田は史織のためを思ってああ言ってくれていたのだ。もちろん、結月もそうなのだろう。どちらがいいとか悪いとかではない。ただ100%史織だけの立場を考えてくれている結月が、嬉しくて、そして、微笑ましく思えた。

夫が有休を取る日に息子と遊園地に行く話をしたら、結月が「様子を見に行きましょうか?」と自ら申し出た。

 彼女も史織が夫の様子が気になっていると勘付いていたのだろう。そうでなくては、会社での夫の様子をやたらと妻が聞きたがるはずがない、そう考えらるのはおかしなことではなかった。

 それで彼女に、つい、夫の休日を見張ってくれるようお願いしてしまった。ちゃんとバイト料を支払うと約束して。彼女はお金なんかいらない、と言ってくれたけれど、休暇を使わせてしまうのだから払わせてくれと、頼んだ。

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