第32話 モテるのか?

"こんばんは。まだ起きてらっしゃいます?”

”はい。こんばんは。今日は久しぶりにお会いできましたね。”

 家事の手を止めて、メッセージで簡単な挨拶を交わした。

”ご主人凄くびっくりされてましたね。ちょっと可哀想だったかな?”

”ここまで驚くとは逆にこちらもびっくりでしたけどね。普段会社ではそんなにも取り澄ましているんですか?”

”取り澄ましてるというか・・・割とクールな感じですね。結構モテると思いますよ。”

”え、本当ですか?”

”奥様、ヤキモチですか?かぁわいい!!でも、職場に女性は少ないから、モテると言っても知れてますよ。ご安心を。”

”確か男性が多い職場って聞いてるんですけど。”

”はい。7割、8割は男性かな。奥様、よかったら今度会いませんか。ゆっくり会社の話をしましょうよ。できるだけ奥様に時間や都合あわせます。” 

”それもいいですね。・・・じゃあ、そろそろ奥様と呼ぶのはやめてもらって。”

”史織さん!でいいですか!嬉しいな、お友達になったみたい!”

 メッセージのやり取りで、やがて時間を合わせて一度会うことを約束した。彼女の甥っ子の話も、聞いてみたかったという理由も有る。

 洗い物を全部済ませ、史織はお風呂に入ろうと着替えを取りに寝室へ行く。夫の洋輝はまだリビングでテレビを見ていた。

「お風呂はいってくるねー。」

「ああ、ごゆっくりー。」

 浴室に続く脱衣場へ入っていった妻の後ろ姿を、夫の洋輝は見送る。

 やがて立ち上がり、キッチンの充電器に差して有る妻のスマホの前へ足を進めた。もう一度脱衣場の方を見て、水音が聞こえてくると彼の手がスマホに伸びた。

 この頃、妻の史織が頻繁にだれかとメッセージのやりとりをしているようだった。洋輝と違って彼女は肌身話さずスマホを携帯する。手放すのはトイレと入浴と就寝中のみだ。

 誰とどんなやりとりをしているのか、夫である洋輝はまったく知らないし、尋ねたこともない。正直、気にもしていなかった。妻だって仕事が有るし、小学校やマンションの自治会のことなどで連絡をとらなくてはならない相手はたくさんいる。

 だが、昨日、職場の女の子が話していた。

 洋輝の後輩が、モーションを掛けている女性のについて相談を持ちかけていたのだ。最近知り合った女の子と付き合いたいけれど、脈有ると思うか判断して欲しい。そんな内容だった気がする。

「普通に考えて、女性が用事もないのに頻繁にメッセージのやりとりしてるんなら、彼氏とかいると考えるのが妥当じゃないですか?少なくとも脈が有る相手の前でそれはやらないと思うので、そういう女性は諦めたほうが無難ですよ。」

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