第31話 あの反応
なんという狼狽えぶりだろう。
そんなにも会社の外で会社の人に出会ったことがショックなのだろうか。
もしも運動会で夫が職場の人間である結月を遭遇したらどうなるだろう、と言ってみたら、彼女はすぐに返答した。
”きっとびっくりするかもですね。”
”そうかしらね?”
”会社人間の人って、会社関係の人間に会社以外の場所で顔を合わせるの嫌なもんじゃないですか。プライベート知られたくない、的な。”
”そういうものかしら?”
職種が違うので正直に言ってそういう感覚はわからない。
史織の仕事は販売だから、客がとても近いところにいるので、仕事をしつつ知り合いに会うこともある。だから、その感覚はわからなかった。
だが、それにしても異常なほどだ。
洋輝の様子はあまりにもおかしかった。
会社の人間に会ったことがそれほどに衝撃的なのか。あるいは、会った人間が結月だったからなのか。
それは、史織にもわからなかった。
「ねえ、子供たちの席へ行きましょう。暫くは出番はないはずだから、ちょっと話すくらいは出来るかも。峻也を労ってあげなくちゃ。」
妻の言葉に、急に我に返ったのか洋輝は慌てて、
「それもそうだな。峻也のところへ行ってみよう。」
一度止めた歩みを再び進めた。
それにしても、結月の身内がいるとは言っていたけれど、甥だったとは。
どの子なのか、聞いておけばよかったかな、と少しだけ思う。そして、運動会に来られなかったその子の両親に、写真の一枚も撮って上げたら親切だったかな、などと思った。
自宅へ戻って撮影したビデオの上映会をする。峻也も一緒に見ているので、本人が色々とその時の話題を話してくれる。
「このときはね、先生が順番を間違えちゃったんだよ。」
「応援団長が席まできてさぁ。旗を振らせてくれたんだ。」
「ダンスはちょっと恥ずかしかった。」
楽しそうに語る息子の姿を、夫と共に眺めるのは本当に楽しいし、嬉しかった。彼は、一位を取れなかったことも、まったく気にしている様子もない。嬉しそうだった。さすがに疲れたのか、その夜はいつもより随分と早く寝入ってしまった。
子供の小さな弁当箱を洗いながら、史織は今日の昼間の夫の様子を思い出していた。あの、結月に遭遇した時の異常な反応を。
あれは、なんだったんだろう。
そんな風に考えを巡らせていると、結月からメッセージが届いた。
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