第33話 ひみつ

 独身の頃の史織は、洋輝と同じで余りスマホをいじらない人間だった。いや、いじるタイプだったのかもしれないが、少なくとも洋輝の前ではそれほどは触らなかった気がする。

 結婚する前、二人でデートする時。洋輝は携帯の電源を切ることが多かった。どうしても必要な時以外は、持っていても繋がらない携帯電話だった。史織も電源は入っていたけれど、いつも着信音を消していた気がする。

 二人は飲み会で知り合った。

 飲み会で知り合ったとは言っても、洋輝は下戸だったから最初の乾杯しかアルコールに口を付けない。付けると言っても形だけで、ほとんど飲んでもいなかった。史織の方がお酒には強いくらいだ。一緒に飲んでいた時も、もっぱら酔っぱらいの介抱や会計などを行っていた。史織は、そういうしっかりとしているところがいい、と言ってくれた。誰もがハメを外している中で、たった一人、きちんと周囲に気を配っている洋輝の姿がカッコイイ、と褒めてくれたのだ。それ以来、洋輝は史織に夢中である。こんな自分を認めてくれた女性が史織だった。嬉しくて、すっかり舞い上がっていた。知り合ってから10年以上の歳月が流れた今も、洋輝は史織が大好きだ。

 最初はお互いの仕事については何も知らないままだった。けれど、史織は営業の仕事に理解してくれていたし、洋輝も史織の仕事について理解しているつもりだ。

 忙しいながらも、うまくやっているつもりだった。

 お互いに実家を頼れない身の上だ。お互いが協力して家庭を守っていかなくてはならない。

 けれどもここ数日、洋輝の目の届く範囲でだが史織がスマホをいじっている時間がとても長い。ということは、洋輝がいない場所ではもっと触っているということかもしれない。誰と連絡を取っているのか、妻は自分の目の届かない場所でメッセージのやりとりをしている。

「・・・や、やっぱ、駄目だろ。」

 妻のスマホに伸ばした手を、引っ込める。

 気になるのは間違いないけれど、やっぱりそれはいけないことだ。案外、直接さらっと尋ねれば教えてくれるのかも知れない。誰とやりとりしているのか?と。

けれど何故か尋ねにくい。聞き辛い。

 何故かと言えば、簡単だ。

 洋輝自身も妻には秘密にしていることがあるからに他ならない。


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