第28話 動向

 史織は結月との出会いについて夫に話すつもりはなかった。妻と同僚がツーカーだと知ったら、夫の行動に制限が出てしまうかも知れない。そう考えると、言わないほうがいいと判断したのだ。その事を結月に伝えると、

”了解です。そうですね、別に言う必要もないかなって思います。私は私で個人的に奥様と知り合ったんだし。”

 実に物分りの良い返信がきたので安堵した。

 やはりこれは結月が同性だからこその気安さがある。万が一にも、結月が男だったら、さすがに黙っているわけに行かなかっただろう。

 その後も頻繁に結月はメッセージを寄越してくれた。

”今日は早出だったようですよ。”

”外回り中にお昼食べたって言ってました。ラーメンだって。いいですねぇ、食べたい。”

”今日は接待だそうですよ。お医者様がたと。どんな所行くんでしょうね。”

”部長に呼び出されてます。”

 ほとんど毎日にように連絡が来るから、夫の動向がよくわかった。

 そして、彼女の連絡の通りだった。お昼のメニューも、接待飲み会も、社外での行動も。夫に確認すれば合っていた。

 だから、史織は夫の行動に関して、結月の言うことを頭から信じ込むようになってしまった。


 

「明日は運動会だろ。早く寝ないと、思い切り走れないぞ。」

 洋輝が夜ふかししようとする息子に冗談交じりで注意した。

 夢中でパズルのゲームをやっていた峻也は、しまった、という顔をした。リビングのテーブルの上でタブレットをいじくり回していたその小さな手が止まる。

「そうだね。明日がんばるところ、お母さんとお父さんに見せてくれるのよね?」

 まだ途中だったパズルゲームを止めたくなくて、なんとも嫌そうな顔をする小さな息子は、自分でも葛藤が有るのか、困ったように固まってしまった。

 峻也の隣りでテレビを見ていた夫は、しょうがないなぁ、と言って笑う。

「じゃあな、これが解けるまでだ。これが出来たら寝る。約束して、な。」

「うんっ!!」

 テレビを消して、息子が手こずっていたパズルの方を見る。きっと手伝って早めに終わらせようというのだろう。洋輝らしい。

 洗った食器を拭っていた史織は、そんな父子を微笑ましく思いながら見つめている。楽しそうに遊ぶ洋輝は、息子のことが本当に可愛くて仕方ないのだろう。峻也が産まれた時から、不器用ながらも育児を手伝おうとしてくれたことをよく覚えている。

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