第24話 心配と言うけれど

 妻の疑いの眼差しが刺さるように感じるのだろう、洋輝は目を逸らして気が付かないふりをした。

「わからないんだ。・・・へえ。」

 悲しそうな史織の声。

 それはもう、諦めと言っても良かった。明らかに夫の言うことが嘘だとわかっている口調だ。

 ハンドバッグの中には、もう一つある。

 受け取ったばかりの手紙だ。例のメールの文句と写真が印刷された一枚の紙。

 けれど、それを夫に見せる勇気はもう史織には無かった。

 ピアス一つに対する嘘を見抜いてしまったから、これ以上、夫が嘘をつくところを見たくなかったのだ。 

 妻は黙ってハンドバッグの蓋を閉めた。

「これで全部?俺に隠してたこと。」

 その口調は柔らかく優しかったが、その言葉を選んだことが許せない。

 まるで隠し事をしている史織が悪いみたいなその言葉。

 好きで隠していたわけじゃない。全てが夫に起因するものばかりなのに、なんで『隠し事』などという言葉を妻に使うのだ。

「・・・その言い方だと黙っていたわたしが悪いみたい。こんなメールや化粧品やアクセサリーを、見つけた時のわたしのショックがわかる?なんでもないふりして今日まで我慢していたわたしの気持ちがわかるの?」

 責めるようにそう言うと、夫も少し苛立ったのか言い返してきた。

「隠さずにすぐに俺に聞けばいいだろ!」

「聞いたって結局何もわからないじゃないの。へんな波風を立てて騒ぎたくなかったのよ。峻也が異変に気付いて情緒不安定にでもなったらかわいそうだし。」

「そりゃ・・・子供に影響させたくないのはわかるけど。けどさ、俺だって心配してたんだぜ。最近なんか史織は様子が変だし、ちょっと痩せたみたいだし。最初からちゃんと打ち明けてくれてればさ、何ていうか、もう少しなんとか違ってたかも知れないし。」

 また言い訳みたいなことを言っている。

 ピアスの時には顔色が変わった。それなのにしらを切り通した。もうそれだけでも史織は夫への信頼を無くした気がする。

 心配した心配したと言うが、それは妻である自分に知られるのが嫌だから心配していたことにして聞き出そうとしているのではないか。史織に何か感づかれていないかをチェックしているだけなのではないか。そういう疑心暗鬼に陥るではないか。

 洋輝は自分でわからないのだろうか。彼は嘘をつくのが下手なのだ。だからこそ史織は彼が好きだったのに。


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