第23話 どこで?
記憶の中で何かを探す。あれは確かに見覚えが有る。
その装飾品がピアスなのは一目瞭然で、妻の史織はイヤリングをすることはあっても、ピアスは身につけない。妻のものでなければ一体どこでこれを見たのか。
「・・・これはどこで見つけたの?」
洋輝は思わず聞いてしまっていた。
夫の様子が明らかに変わったことに気がついて、史織の表情が硬くなる。
「これには心当たりがあるんだ・・・。」
暗い声で呟いた史織。
メールにも口紅にも一切あやしい反応がなかったから安心していたのに。
そう言えば、これを見つけた車の鍵を借りる時も、ちょっと様子がいつもと違っていた気がする。いつもならば、『自由につかっていいよ』と一言言うだけなのに、あの時は『翌日に鍵を渡す』と言っていたではないか。
「い、いや、ないよ。言ったじゃん、そういうの趣味ないってさ。でも史織はピアス穴開けてないから付けないだろ。どうして持ってるのかなって疑問に思うじゃん。」
洋輝が慌てて言い添えた。
焦って言い訳をしているけれど、既に言っていることがおかしい。そして、それに本人が気付いていない。
どこで見つけたのか、と尋ねたではないか。
どうして持っているのか、とは聞いていない。
洋輝はそれに気付かずに発言してしまっていた。
「車の中で見つけたのよ。」
小さな声でそう返答すると、ぎゅっと唇を噛んだ。その後の夫の反応を見るのが怖くて、無意識にそうしてしまったのだ。
洋輝は『車の中で』と聞いた途端に何かを思い出したのだろう。一瞬だけ口を開いたが、そこから言葉は出てこなかった。
辛そうに夫を見つめる史織の視線を受けても、沈黙を続ける。
黙っていられなくなったのは史織の方だ。
「どうしてこんなものが車の中に落ちてるの?あなたピアスをつけるような女性を同乗させたんだ?仕事中に?そういうつきあいがあるなんて知らなかったわ。」
皮肉っぽく言えば、洋輝は困ったように眉根を寄せる。
「・・・いや、あの、・・・本当に、俺にもわからない。仕事で女性を乗せることなんてほとんどないし。普段は家族と出かける時にしか車乗らないんだし。本当に、わからない・・・。」
ぼそぼそと言い訳を言い募るけれど、史織はその言葉を信じる気になれなかった。
じゃあ何か?どこかからピアスが羽をはやして飛んできたとでも言うのか?
それとも、通りすがりのお姉さんが偶然にも車の中に落としてしまったとでも?わざわざ?ドアの内側に?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます